第405話

カッコよかった
30,941
2020/07/20 13:47
ピッ……ピーーーー!!!!!




100人近くが居るこの会場で_______一瞬誰もが静まった。




この結果を予想してなかったであろう主審の少し遅れての笛と、同時にめくれる烏野の得点。



21対19



ほぼ、5セットフルの戦いは_____あまりにも静かに、幕を閉じた。





3拍ほど置いて、盛り上がる体育館。



後ろの烏野応援団は腹の底から歓喜の声を出して、その向こうの白鳥沢は多くの人が頭を抱えてこの現実を受け入れられずにいた。



私は、転がっていったボールと、それを放って着地した日向をゆっくりと交互に見て。



瞬きをすると、手の甲にポタッと滴が落ちた。





その中で、その中心にいる選手は。



同様に、息をしていないんじゃないかと思うほどに静かに向かい合って。




そのコートの中心で、澤村先輩と旭先輩ががっしりと抱き合い、コート外から飛び込んできた菅原先輩がそれに被さった。







「「「お"おぉぉぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」





腹の底から、渾身の唸り声が響いて。



それを見てボーッと立っていた日向、カゲくん、月島くんに他の皆が飛びついた。




あなた「ぅ……、あ……っ、〜っ、ぅう……」






『もう一度、あそこへ行く!!』






あの日。



青城に敗れて、拭いきれない悔しさの中でみんなで誓ったあの目標が。




今、目の前で……今ここで……成し遂げられた。







足がガクガクの日向の腕を引っ張るカゲくんと西谷先輩、他の皆がスタンドに向かってきて、思わず涙を拭いた。




拭いた……のに。






溢れて、止まらない。






澤村「応援、ありがとうございましたぁ!!」



「「「「ありがとうございましたぁぁ!!」」」」




烏野の皆が一列に並んで、綺麗に頭を下げた。





滝ノ上「よくやったぁぁ!」


嶋田「すげぇぞお前らぁぁぁ!!」


冴子「愛してるぞぉぉ龍!!」




仁花ちゃんも私も、何か声をかけたいのに……出てくるのは涙ばかりで、なにも言えずに。



ただただ大きな拍手を送って、この結果を祝福した。





菅原「ははっ、あなたまた号泣してじゃん!」


澤村「それもぐちゃぐちゃっ!」


あなた「うぅ……、誰のせいだと思って!!」





止まらない涙をひたすら拭いながら必死に声を張ると、皆は涙で赤くなった目をこれでもかと言うくらいに優しく緩ませた。








白鳥沢「ありがとうございました……!」





ふと、白鳥沢の皆の姿が目に入って。



拍手を噛み締めることなく戻っていくその背中は、やっぱり小さく見えた。



小刻みに揺れるその肩は、この戦いを最後までやり抜いた証。



王者と呼ばれる彼らは、今日初めて敗北を知った。



それがどれだけショックか、そしてそれを、ひけらかして表に出せないからこそまた悔しくて……。





……ボールを"落とした側"にかける声は、やっぱり私には見つからなかった。





表彰式まで時間があり、選手の皆はストレッチをしたり涼みに行ったりと、それぞれ動く。




日向とカゲくんがまだ体育館にいるようだったので、外に出ていた先輩たちと喜びを共有してから決戦の場に足を踏み入れた。




ほんのさっきまで……ここで、決勝が行われていて。




皆の色々が詰まった試合だと思った。







あなた「…………ぁ」




並んでストレッチをしている、3本指の大エースとゲスブロッカーが視界の端に映った。



足を組み換えた瞬間に、天童さんと目があって。



そらしていいものかと一瞬止まった私に、天童さんは軽い動作で手招きした。
  

あなた「…………」



天童「負けちゃったネ」



牛島「…………」



あなた「…………」




ストレッチを終えた若くんはゆっくりと体を起こし、立ち上がった。




あなた「……?」



牛島「後で、少し話せるか」





後悔も、悔しさも、葛藤も、何の色も見えないその顔で尋ねられて、頷くとそのままカゲくんたちの方へと向かっていった。






天童「あ〜……俺の楽園ともお別れかァ」



あなた「…………、」



天童「何も言わないノ?」



あなた「…………うん」






何を言えばいいのか分からなくて、何を言ってもいいのか判断できなくて。



それを本人に聞くのが野暮だということくらい分かっているから。





天童「相手俺なんだから、気にせず言えばいいのに」



?「天童さ_________、っ、」



あなた「……!」





天童さんが手を伸ばすのでドリンクを浮かせて手渡すと、丁度大平さんと白布さん、工くんと瀬見さんがやって来た。



……やば。




白布「…………」


五色「……っ、」




2人は、私から悔しそうに目をそらして俯いて。


瀬見さんが2人の背中に手を置くと、唇を噛み締めた。




あなた「…………」



天童「……修羅場?」




天童さんの場を読まないのか読んでるのかよく分からない発言に少しだけ空気が緩んで、私は頭を下げてそこから去ろうと踵を返した。




白布&五色「待っ_________、」




2人が同時に発した言葉に足を止めて、今私が言えることは何だろうと必死に頭を回転させた。



……でも多分、取り繕った言葉は認めてもらえない。


こんなになる程に一生懸命に戦った彼らに、表面上だけの言葉では失礼になってしまう。




だから、今言える私の本心を……。







あなた「_______1回しか、言わないからね……?」



五色「……え?」


白布「……」




丁度、向こうから若くんが帰って来て、皆を見渡せるように数歩移動して体を向けた。






あなた「悔しいけど……。〜っ、白鳥沢のバレー、カッコよかった……よ/」




白布「_________!」


五色「………………………ふぇっ、///」


天童「ハァ……"そういうとこ"だよネ//


牛島「………………、」






皆が思ったのと違う反応だったので少し動揺したけど、気にしないことにしてニコッと笑って見せた。





先に体育館から出ていったカゲくんと日向を追いかけようと、私はもう何も言わずに今度はしっかりと振り向いて皆に背を向けた。

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