?「あなた、探した」
後ろに引き寄せられて銃身が傾き、そのまま体を預けてしまった私は、声質からその主を探った。
ただ、何回考えても"あの人"しか出てこなくて。
川相「え……、なんで」
青ざめて、"信じられない"とでも言いたげな顔を向けてくる川相さん。
そりゃ、勿論そうなるだろう。
私が"あなた"だって事も、そして私が"彼"とまた話しているという事も、想像もつかなかっただろうから。
国見「……なにしてんの」
川相「え、どうして国見くんが……?そ、それに……「あなた」ってどういう、」
英は、微かに触れた腕に力を込めて川相さんから遠ざけた。
国見「今俺が質問してるんだけど?なにしてるの」
鬱憤の込もった声。
ただただ、疑問と焦りと戸惑いをその表情に宿らせる川相さんを英の腕の中で客観視する。
川相「え……、て、鉄朗くんじゃ、なくて……」
あなた「……うん。私はあなただよ。川相さん……貴女が言ってた、"中学でイキがってたビッチ"」
元々、言い返すつもりだったし。
声は震えるけど確かに言葉を繋いで、川相さんは私が黒尾鉄朗ではなくて岩泉あなただとやっと理解したようだった。
川相「っな、なんで、国見くんとあんたが一緒にいんの!?国見くん、また騙されてるの!?コイツは国見くんを裏切って_______っ、」
血相を変えて詰め寄ってきた川相さんは、英を見上げて言葉を詰まらせた。
国見「まだそんな事言ってんの?俺はとっくに本当の事を知ってる。お前がくだらない嘘を吐いたのも、それであなたを傷付けたのも」
川相「……、」
国見「それでも1番は、彼女を信じられなかった俺が悪いってちゃんと悔いてる。その上で……取り戻したいって思ってる」
あなた「_________!」
思わず、英を見上げると。
真に申し訳なさそうな目で私を見下ろし、また川相さんの方を向いた。
国見「だからこれ以上、コイツになんかするなら_____分かってるだろ?」
川相「っっ、!」
英の、本気で怒った顔……久々に見た。
その覇気に圧倒された川相さんが後ずさって、それにホッとしてからようやく自分が怖がっていたという事を思い出した。
あなた「英……、」
国見「……行くよ」
川相さん達に踵を返して、英につられるまま足を進める。
川相「なによ……私だって、本気じゃなかったし」
後方で呟く川相さんの声。
川相「誰があんたみたいなぶっきらぼうでつまんない男を好きに___」
……。
国見「……?あなた?」
足を止めて、英の手をゆっくり引き剥がした。
川相「あんな女々しいスポーツなんかやってる男なんて好きになんない______」
グイッ
川相「!!?」
蹲み込んで自分に言い聞かせるように言葉を並べていた川相さんの胸ぐらを掴んで、引き上げた。
驚いた顔をして、それでも私をキッと睨む。
川相「なによ……調子乗んなビッチ!!どうせ私の事怖くて怖くてたまんないんでしょ!?」
あなた「……うん。怖いよ」
国見「……!」
震えが止まらない。
この人にされた事を思い返すとお腹が痛いし、吐きそうになるし、逃げ出したくなる。
それでも__________。
あなた「英は「つまんない男」なんかじゃない」
国見「……」
あなた「やる気無さそうで、無愛想で口下手だけど……それでも、大切な事は忘れないし誰より優しいんだよ。……そんな事も知らないアンタに、陥れられた自分が不甲斐ない」
川相「っあんたは、そんな国見くんに信用されてなかったじゃない!」
あなた「そうだよ。信じてもらう事を諦めたから……でも、今こうしてまた、友達に戻る事ができてる。私は確かに今でもアンタが怖いけど、大切な友達と……私の大好きなバレー馬鹿にされてそんなん足枷にもならない!」
スゥッと息を吸って、これまでの数々を思い返した。
その怒りと悲しみを込み上がらせて、思いっきり言葉にした。
あなた「だから________」
うん。
もう、怖くない。
私にはバレーがあるし、英がいて、烏野の皆がいて……バレー馬鹿達がいっぱいいる。
それがどれだけ私の勇気になるかなんて、きっと皆には分からない。
あなた「アンタのつまんない嫌がらせなんかいくらでも受けて立つわ!!!100倍にして返してやるこのクソビッチ!!!!」
川相「なっ………、」
あまりの大声だったせいで周囲の視線が集まって、「ビッチ」と通りすがりの人から呟かれ続けた川相さんは顔を真っ赤にして取り巻きと一緒に逃げていった。
あなた「はぁ…………よし!言ってやったぞ!!」
国見「……お前、ほんと…………」
あなた「え?」
呆れたような声を出すので怒らせたかと振り返ると、瞬間再度引き寄せられて胸に収まった。
あなた「え、英……?」
国見「…………卑怯者が」
あなた「えぇっ!?」
え、なんで私卑怯者扱い……?
国見「ふ…………俺もスッキリした」
そう囁いて解放してくれて、見上げた英悪戯っ子の笑顔。
その懐かしさに思わずこっちも笑顔になって、2人で笑い合った。
・
国見「あなた、それ着替えないの」
あなた「……あ、ほんとだ」
何やら人が集まってきたので人気のないところへ移動してから、未だ男装のままだったと思い出した。
あなた「う…………でも、着替え3-1に置いてて」
国見「……あぁ、花巻さんの?」
……。
一瞬忘れていた事を思い出して、また怒りがこみ上げてきた。
あなた「うん……取りに行かないと」
国見「……そうだな」
グイッ
あなた「!?」
仕方ないし教室棟に向かおうとした私を、なぜかまたまた引き寄せる。
だけど今度は抱きしめられたりはせずに、開いた片手でひたすらに私の口をゴシゴシ擦った。
あなた「んむっ、むぅ……!?」
国見「…………」
え、なんでそんな怒ったような顔してるの……?
クエスチョンマークが飛びまくっている私の表情を確認すると、ため息を1つ吐いて耳に顔を近づけた。
国見「隙だらけだからあんな事されるんでしょ」
あなた「……?〜っ、!?み、見てたの!?」
あの劇を見られていたんだろうか。
花巻くんとキスしている所を見て、だから……?
国見「ほんと……上書きしても足りないくらいイラつく」
あなた「上書k_______っ、ちょ、待って待って!!」
壁に追いやられてそういう体勢を組まれた。
必死に口を手で覆うと、チッと聞こえるように舌打ち。
国見「花巻さんはよくて俺はダメなんだ……?」
あなた「そ、そういう問題じゃないでしょ!?」
国見「俺らは何回だってしてるんだから変わんないだろ」
どういう理屈……!!!?
いやいやいやいやいや、でも……!!
あなた「あっ、英と何回キスしても、"変わらない"なんて思った事なかったし!!!私にとっては全部特別なんだから!」
ドスッ
国見「ぅぐ……、」
みぞおちに喰らわせてしまって、よろけた英の腕を掻い潜りなんとか脱出。
ちょっと申し訳ない気もするけど、いきなりキスしようとした英も悪いし……!
あなた「じゃあ私着替えに行くから!!バイバイ!!!」
お腹を抑えて何か言いかけた英を置いて、教室棟に戻った。
国見「(全部"特別"とか……やっぱ反則だろ、アイツ……)チッ……加減効かなくなる、//」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。