夜久「あなたちゃん~ごめん、タオ______、」
あなた「タオルですね、どうぞっ。」
夜久「え、ありがとう……って、なんかいい匂いする……落ち着くぅ……。」
あなた「スパイクラベンダーのアロマです。筋肉とか、緊張感をほぐしてくれる優れものなんですよっ。」
夜久「緊張感……?」
すんすん嗅ぎながら、首をかしげた。
あなた「皆さん遠いところから慣れない土地での練習なので、少しでもリラックスしていただけたらなと……。」
海「すごいな。気が利く。」
私からタオルを受け取った海さんも、匂いを嗅いで顔を緩めた。
あなた「りんごにも同じ効果があって、スパイクラベンダーと2つ用意してるので気に入っていただけた方をこれからご用意しますよ。」
話していると、さっきまで遠慮がちに様子を伺っていた研磨くんがトコトコと歩いてきた。
あなた 「研磨くんお疲れ!タオル______、」
研磨「……りんご。」
聞き取れるか、聞き取れないかの微妙な声に、少し反応が遅れたけどなんとか分かった。
あなた「研磨くんりんご好きなの?はいっ。」
タオルを渡すと、汗を拭きながらすんすんっと匂いを嗅いで、目尻を下げた。
……え、なに、かわいいかよ。
あなた「ね、ねぇ研磨く______、」
聞きたいことがあって話しかけようとすると、ハッと目を大きく開けてお辞儀するとタオルを両手に抱えて去って行ってしまった。
うぅん……、
黒尾「研磨を手懐けようってか?キミにはムリムリッ。ほらタオ______、」
あなた「どうぞ。」
からかうように楽しそうに近寄ってきたので、すぐにタオルを渡した。
黒尾「匂いもなぁ……たまたま皆気に入ってくれたけど、人には好き嫌いが__っ、」
夜久「おい、黒尾言い過ぎだぞ。あなたちゃんは俺達のためにしてくれてるのに……、」
夜久さんが黒尾さんの肩を掴む。
なんて優しい人……!
夜久さんはリベロだけど、西谷先輩とはまた少し違う感じ。
決してお兄ちゃんって感じではないけど、なんか親しみやすい。
あなた「夜久さん、大丈夫ですよっ。
ニコッと微笑むと、「でも……」と食い下がってくれた。
いつまでもタオルを凝視して嗅いでの繰り返しをしている黒尾さんを指差すと、不思議そうに肩から手を離した。
黒尾「…………なんで、この香り……、」
あなた「黒尾さん、その香り好きですよね。「ジュニパー」。いい趣味してますっ。」
黒尾「なんで俺の好きな匂いが分かった?」
不機嫌そうに顔をしかめるので、こちらはにこにこと顔を崩さずに説明した。
あなた「初めにお話しした時、黒尾さんのジャージからこの香りがしたので。」
海「すげ。そんなの分かるんだ。」
あなた「私の兄も好きな香りなので、たまたま覚えていただけですよっ。」
両手をヒラヒラさせると、夜久さんがその手をギュッと掴んできた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!