第331話

‥思い出‥
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2020/05/16 07:44
あなた「ちょ……離してよ!」


侑「ええやんもう。鍵あらへんし」


あなた「この箱開ければいいんでしょ!?」


南京錠に手をかけると、北さんが顔を横に振った。



北「その箱、フィナーレの直前にならな開かへんねん……」


あなた「え"…………つま、り?」



侑は不気味な笑みを私に向けて、手錠をひけらかすように右手を掲げた。



侑「今日1日ずぅっと一緒やで」


あなた「……」




ほんっっと、軍服がお似合いで……。
あなた「ねぇ……私、北さんと話したいことがあるんだけど」


流石に実行委員の人とかに言えば箱を開けてくれるんじゃないかという期待は、すぐに打ち砕かれた。



角名「一昨年結果発表前に流出するってことがあったから、多分開けてくれないと思う……」


侑「なんや、北さんと話したいことって」


あなた「ぅ…………」



だって、治が来てうやむやになっちゃったし……。


北さんにチラッと目を向けると、「ええよ、今度でも」と頭を撫でてくれた。



あなた「ごめんなさい……」


北「そん代わり……ええ返事待っとるわ」



……。




北さんと付き合えば……きっと、幸せなんだろう、けど。




侑「ほな行くで?腹減ってんねん」



歩き出したので仕方がなくついていく。


各教室の前を通る度に黄色い悲鳴が飛び交って、すぐに私と侑を繋ぐ手錠について批判を浴びせられた。




……稲荷崎に通ってなくて良かった。



外に出て、屋台をぶらつく。



「ぐっ、軍服だぁ……」

「鼻血…………」

「え、誰??横の子」

「ちょ!手錠で繋がれてない!?」



あなた「……ねぇ、やっぱり嫌なんだけど」


侑「こうでもせんと、自分すぐ逃げるやろ」


あなた「……逃げないもん」



私の反抗もなんのその。

侑は軽い足取りで屋台を物色し、焼きそばを2つ買った。



侑「こっち座り」


手錠の長さ的に向い合わせで座ることができないから、仕方なく隣に椅子を持っていって腰かける。


後ろを歩いていた治達が向かいに座って、皆もそれぞれ屋台で購入していたものを食べ始める。



侑はわざとらしそうにニヤつくと、右手を掲げる。



侑「あかんわぁ~。利き手がこんなやし食べられんもん。……そや、あなた、食べさしてや?」


あなた「はっ…………!?」



確かに繋がれてるのは右手だけど、自分でやったくせに……。



侑「ん~」


箸を渡してきて口を開けた。



ええ……ほんとにするの?

箸と焼きそばを交互に見ていると、治に箸を盗られた。



治「せんでええ」


侑「なんやサム」



ムスッと顔をしかめた侑の頭を乱暴に掴むと、無理矢理顔を上に向かせ、焼きそばをすくって口に押し入れる。



侑「んむぐっ…………!?」





カシャカシャカシャカシャカシャッッッ




……どこからともなく聞こえてくるシャッター音。



侑「おえぇぇぇっ、サムにあーんされるんとか旨ないわ!!」



頭をブンブン振って嫌がる侑。

治は真顔のまま焼きそばをもう一度すくうと、頬を挟んで口を開けさせ焼きそばを押し込む。



ピッ……


カシャカシャカシャカシャカシャッッッ



あなた「…………倫くん、なに動画撮ってるの?」



苦笑して尋ねると、「思い出」と目を細めた。



あぁ……稲荷崎ここではゆっくりできない運命なんだなぁ……と悟った瞬間だった。

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