菅原母「えっと……じゃあ、あなたちゃん。それから貴大くん。ようこそ菅原家へっ。乾杯!」
「「「「……かんぱーいっ」」」」
ぎこちない挨拶から、お食事会はスタートした。
私は菅原先輩と花巻くんに挟まれる形で座って、向かいにはおばあさんとお母さん、それからお父さん。
菅原家と、私と、花巻くん。
まったく意味の分からないメンバーだけれど、ことの成り行き上乗るしかない。
とりあえず勧められるままお寿司を頬張って、食事を表面上楽しんだ。
菅原母「いや〜。まさか孝支にこんな可愛い彼女さんが居たなんてっ。ね、お母さん!」
菅原祖母「そうだねぇ……ただ、なぁんか一癖ありそうな子だよ」
あなた「……、」
菅原「ちょ、ばあちゃん……!」
花巻「アハハッ、仰る通りで!」
あなた「ちょ、はn____お兄ちゃん!!」
皆してひどいなぁ……。
焦る菅原先輩と、場を和ませようとしてくれている花巻くんと。
そして、「冗談で言ったんじゃないよ」と箸を置くおばあさん。
菅原祖母「この歳まで生きてきてね……まぁロクな出会いはして来なかったよ。男に騙され弄ばれもした。可愛い孫にそうなって欲しくないというのは……分かるね?」
菅原「あのさばあちゃん。あなたはそんな事する子じゃないs____」
菅原祖母「黙ってな。私は今この子と話をしているんだよ」
菅原「う……」
押され気味の菅原先輩に、聞いた通りの人物像だと確信した。
でもそれは、愛する孫を思ってのことで。
菅原祖母「あんたに……孝支をこの先支えていく覚悟はあるのかい?あるとして、この子のどこを好きになったのか…………はっきり言いな」
あなた「…………、」
隣に座る菅原先輩が、心配そうな顔で私を見た。
正直、菅原先輩の好きなところなんていくらでも出てくる。
だけどその真意は、おばあさんの望んでいるものではないはずだから。
あなた「…………」
黙り込んでしまった私を見かねたのか、今度はお父さんが「あー……」と控えめに話し始めた。
菅原父「それも勿論気になるんだが……1番確認したいことがあるんだ。お義母さんよろしいですか?」
おったりした口調に、この親にしてこの子ありだなとしみじみ思った。
おばあさんが頷いて、ペコリと頭を下げてから私と菅原先輩を交互に見やる。
菅原父「つかぬ事だけど…………2人はどこまで進んでるのかな?」
菅原「ぶっ」
あなた「……?春高、ですか?」
花巻「それ絶対違う」
「どこまで」……とは?
隣で大リアクションをとった菅原先輩はお父さんを止めようと必死。
「あらあら」と微笑んでいるお母さんと、「そうだね」と鼻を鳴らすおばあさん。
菅原「なっ、何も!"そういう事"はしてないよ。高校生らしい健全な付き合いを___」
……あ。
そういう質問だったの……!?//
菅原母「って言っても、何かあるでしょ〜。ほら、手繋いだとか〜」
小馬鹿にするような発言は、私たちに「バカにするな」と言わせたいのかもしれないけど……。
実際ほんとに繋いだ事はないから、2人揃って黙り込んでしまった。
菅原母「え……ほんとに?」
半ば引かれているような顔をされてしまい、焦った先輩はその場を立ち上がる。
菅原「ある!あるよそのくらいっ。バグだってした事あるし!」
……まぁそれは、ある……かも?
隣で肩をピクッと跳ねさせた花巻くんをおばあさんが見やる。
菅原祖母「アンタも気になるだろ?自分の妹が彼氏とどんな付き合いしてるのか……」
花巻「え?……あー。コイツちょっと異性が苦手で、スキンシップとか進んでとるやつじゃないんですよ。だから菅原くんも、あなたに合わせてくれてるんじゃない?」
菅原母「あら。そうなの……?」
目をまんまると開けて食い気味のお母さんに、恐る恐る頷いた。
これが1番妥当だと思ったから。
菅原父「でも……ならどうしてうちの息子を選んでくれたのかな?」
あなた「…………」
これ以上黙っているのも厳しそうだから、先輩にアイコンタクトしてから話すことにした。
あなた「楽しい時に、"またやりたいな"って。嬉しい時に、"よっしゃ!"って……。一緒にいると、何をするのも楽しくなるんです。私が本当に嫌がる事は絶対にしないし、でも心のどこかで助けを求めてる時、優しく抱きしめてくれました。…………"優しいから"なんて単純な言葉じゃダメだけど……でも、誰よりも思いやりと慈愛に溢れた人だと感じて……これからも、一緒にいたいと思えるから、です」
菅原「…………、//」
菅原祖母「ふん……よく知ってるじゃないか」
菅原母「素敵……!」
菅原父「なんだか安心したよ」
反応はそれぞれだったけど、好評のようで助かった。
用意していた言葉じゃなくて即興だったけど、しっかり繋げたのはきっと______。
菅原先輩を語りながらも。
"あの人"を思っていたからで。
安堵の反面、少し後ろめたい気持ちにもなった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。