前の話
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最初は森然高校か……。
対戦表を見ていると、そこに背後の影が写った。
振り向くと、ニヤニヤ笑っている黒尾さん。
黒尾「さっきは研磨に先越されたからなぁ~」
あなた「……?」
なんのこと?
あなた「あ、音駒が当たるのは……」
黒尾「知ってるよ。…………なぁ」
あなた「ん?」
え?
ズイっと近寄られて後退ると、どんどん詰め寄ってきて壁まで追いやられた。
あなた「なになになにっ!?」
黒尾さんは焦る私を見て唇の端を吊り上げた。
スゥっと近寄ると、右手で私の髪を耳にかけ、顔を近づける。
あなた「っ、なに……」
黒尾「今日の夜、中庭に来て」
露になった私の耳元でそう囁くと、顔を離して目を合わせると皆のところへ戻っていった。
中庭……?どうして……。
理由はよく分からないけど、なにか用事があるのかな?
澤村「フライング一周~」
もう何度目のペナルティだろうか。
音駒だけではない。
毎練習後に100本サーブを打っている神奈川県の生川高校。
コンビネーションの匠、埼玉県の森然高校。
さらに全国五本の指に入るエース木兎さん率いる、東京の梟谷学園。
そのすべての全国レベルに、烏野は着いていけていない。
別にこっちの調子が悪いわけでもない。
まぁ、日向達がいないのが大きいのは確かだとして、さすがだ。
ピーーッ
澤村「よーし。じゃあフライング一周!」
生川との試合も20対25で負けた。
?「あいつら何敗目だよ……」
どこかのチームの人が話すのが聞こえてきた。
?「別に弱くないけど、平凡、だよな?」
?「音駒が苦戦したヤバイ一年てどれのことだよ。音駒の連中の買い被りすぎじゃ」
……好き勝手言いやがって、やんのかおらぁ。
隣でしかめっ面をしている仁花ちゃんと、ぶつぶつ言い合う。
あなた「ちょっと一緒に乗り込む……?」
谷地「そうだねっ、行こうか……」
どうやって奇襲を仕掛けようか悩む。
清水「二人とも押さえて。どうどう。……大丈夫。田中の言うことが本当なら、もうすぐ……」
ガララッ
見計らったように空いた扉から、まず金髪の女の人が顔を覗かせた。
それに続いて入ってきたのは、カゲくんと日向。
無事補習を乗りきったようだ。
よし!挽回だぁ!!
烏養「あなた~」
カゲくんのところに駆け寄ろうとしたところで呼ばれて、手招きされたので行ってみると悪い顔で笑うコーチ。
烏養「次は森然とだけど、どうだ?半日試合見た感じ」
そう。カゲくんたちが到着するまでをタイムリミットとして、各校の分析をしてみろと言われた。
あなた「んと、とりあえず傾向とかは掴めました」
そう言ってノートを渡すと、パラパラと読み漁ってから「上出来だ」と歯を出して笑った。
「3番3番っ!!!ストレートだ!!」
「ナイスレシーブ!」
バシュッ!!!!
ジャンプした日向にカゲくんがトスを合わせる。
補習後でもキレッキレのトスまわしだ。
カゲくんと日向のコンビ、そしてわずかながらも私のノートが役に立ってくれたようで、25対21。
9セット目にして初めて勝利を獲得した。
?「あの途中から来た九番十番の速攻なんなんだっ!」
変人速攻です。
そして赤点遅刻組です。
あなた「お疲れ様ですっ」
田中先輩と西谷先輩にタオルを渡すと、2人とも笑顔で受けとる。
やっと勝てたしなぁ……初のペナルティ無しかぁ……。
田中「……向こうは生川高校対音駒かぁ、時間的に、あれが今日のラストゲームかもな」
西谷「だな」
まだ息が完全に整っていない西谷先輩が同調した。
ピーーッ
リエーフ「あなたっ!!見たか俺のスパイク!」
試合に勝つとすぐにリエーフくんが駆け寄ってきた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。