田中「うっっがぁぁぁ!終わらねぇ!!」
夏休みが終わる前日。
バレー部皆で__宿題お終わってない者+その他愉快な仲間たちとで、部室に集まった。
縁下「田中も西谷も、あと現代文だけだろ~?ほらちゃっちゃとやる!田中答え見ない!!」
答えを没収されて涙目になる田中先輩を見ながら笑っていると、目の前の澤村先輩からチョップを喰らった。
澤村「集中!お前が1番終わってないだろ!」
あなた「うぅ~……」
……そう。
試合が終わって宿題について思い出し、お盆の間に進めていくつもりだったんだけど……。
さっき買ってきたファンタのペットボトルを開けながら、悔やんだ。
西谷「なんだよこれ……。つまり紀夫は、この麦わら帽子の女の子に“一目惚れ”したってことか……?」
『一目惚れ、だったんだ』
あなた「ぅごふぅっ……!!ごほっ、ごほん!」
菅原「だ、大丈夫か!」
……やばい。
自分でも思ってた以上に意識してる。
あの後、工くんはすっごい謝ってから、走って帰っていってしまった。
ただ、「一目惚れ」という私にとって無縁だった言葉と、抱き締められた微かな温もりを残して。
あなた「すみません……平気ですっ」
噎せた私の背中をさすってくれた菅原先輩にお礼を言ってから、また宿題に取りかかった。
田中&西谷「終わったぁぁぁ!」
残すところ一教科。
最後の科目……数学に取りかかろうとしたところで、2人が両手を上げて叫んだ。
くそ……追いつけなかった……。
とりあえず……こんなに終わったしな。
田中「今日掃除当番なんだよ!先帰るわ!!」
大急ぎで荷物をまとめた田中先輩が、挨拶して急ぎ足で帰っていった。
それに続いてどんどん帰る人が増えていく。
澤村「どうする、あとは家でやるか?」
あなた「あ……ちょっと残ってやってていいですか?鍵は返しておくので……」
家に帰ったらどうせ徹くんがいるだろうし、宿題も手につかないだろう。
学校という場所にいるだけで、少しモチベーションが高まるんだ。
……というのは建前で、少し1人になりたかった。
考えたかった。
あのまま、工くんとは会っていないし連絡もとってない。
本当に、このままでいいのか____。
澤村「そうか……?んじゃ、先帰るぞ」
残ってくれていた澤村先輩、菅原先輩、そして荷物を片付けていた縁下先輩と西谷先輩が、一気に出ていった。
見送ってから、足を崩す。
あなた「……はぁ」
工くん……。
数学のワークの、最初の方のページは基礎問題で比較的簡単だ。
この基礎の範囲が終わるまで、じっくり考えられる。
あなた「はぁ…………一目惚れ、かぁ」
ギィィ……
頬杖をついて嘆息を漏らしたと同時に、扉が開いた。
もう皆帰ったはず……誰?
控えめに開いた扉から入ってきたのは……。
西谷「よぉ」
先に帰ったはずの、西谷先輩だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。