松川「あの時、あなたちゃんが急に戦略言ってきてさ、もう監督もコーチも戸惑う戸惑う。でも中学生のあなたちゃんの言うことだからってあしらわれて、それでもあなたちゃん食い下がって……及川がそれを実行してめっちゃ綺麗に点が入って、監督たち面食らって……あれは笑えた」
松川くんはクスクス笑いながら、また口を開ける。
松川「あの時からだったなぁ。監督もコーチもめっちゃあなたちゃんのこと気に入ってさ、是非青城に……って。それでも、あなたちゃんは烏野に行って、どうしても欲しいとか言って練習試合であなたちゃん賭けたりしてさー」
あなた「あれって……そうだったの?」
松川「うん。黙っててごめんね」
驚く私の頭をぽんぽんと撫でて、松川くんはニコッと顔を緩めた。
松川「俺は、向いてると思うよ。アナリスト」
あなた「そう、かな…………」
松川「というか、それはあなたが1番分かってるはず…………って、ごめん、呼び捨て」
あなた「あっ、ううん。呼び捨てで大丈夫。……あのね、悩んでる理由もう1つあって」
松川「兄貴か」
あなた「っ、……うん」
松川「まぁ確かに、すんなり応援してくれるかはわからねぇな……」
そう。
日本でアナリストが脚光を浴びてきたのはまぁまぁ最近で、ポピュラーな仕事とは言い難い。
それにアナリストへの道は本当に狭き門で、大学で学んだとしても卒業と同時にどこかのプロチームがアナリストを探している必要がある。
大学に行って、一般的な就職先に行こうと思っていた私にとっては悩むべき問題だった。
あなた「お兄ちゃんはきっと、心配して……」
松川「……あなた」
ベッドのシーツキュッと掴んだ私の手ひ松川くんはそっと触れた。
松川「確かに岩泉は、あなたのことが心配で反対するかもしれない。でも、今重要なのってそれじゃないよね?」
あなた「……?」
松川「あなたが、"やりたい"か"やりたくない"か。アナリストに興味があるなら、時間のある今のうちに打ち込んでみなよ。もしそれで「違う」と思ったんなら、そこから違うことに興味を向けてみればいい。……あなたは、やってみたい?それとも__」
あなた「やってみたい!」
触れた手を両手でキュッと掴んで声を張った。
そんな私を見て、松川くんはまた、優しく笑った。
松川「それなら、そうやって兄貴を説得してみな」
頭を撫でて、くしゃくしゃっと動かす。
松川「今興味のあることに打ち込めれば、その道に進まなくてもそれはあなたの糧になると思うよ」
あなた「松川くんて……めっちゃ大人だよね……」
松川「そ?」
あなた「うん……相談してよかった。ありがとっ」
へへっと笑うと、少し目を見開いたように見えた。
松川「じゃ、もう暗いし送ってくよ」
断ったけど押し強く、一緒に家を出た。
松川くんが鍵をかけたところで、ふと勉強机に置いたカップラーメンを思い出す。
あなた「ねぇ、松川くん」
松川「ん?」
あなた「私、帰りたくない」
松川「…………へ?」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。