第731話

夢の追いかけ方
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2022/11/03 12:00
白布𝓈𝒾𝒹𝑒.°





なんで初めから、こう出来なかったんだ。







白布「ん、手。」


あなた「っあ、ありがとう……ございます、」







靴に入った石を取るからと不安定に片足立ちする彼女に差し出した手は、案外すんなりと受け入れられた。





今まで、踏み切れていなかった行動のひとつひとつが。





こうもコイツの心を揺さぶるなんて考えてもいなかった。









今、明らかに俺の好意を意識し始めている。





なんで離れるって分かって、居なくなることを理解してから気付くんだ。











白布「着いたら飯食べるだろ。」


あなた「あ、はい……!そうしましょうっ。」


白布「………。」











俺にはたまにしか見せなかったこの無垢な笑顔が、今は当たり前のように向けられる。




もし、俺が初めからこうしていたら。









何かが違っていたんだろうか。











    



あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°





落ち着かない。




白布さんの能面や悪態が、いつの間にか当たり前になっていた自分が怖い。







他の人にこうされたってなんともないのに、白布さんだと訳が違う。









差し出してくれた手を取った時、違和感はあったけど……なんだか様になってるよなと感じた。





多分、この手が私に向けられたものでなければ違和感もないんだろう。





雑に扱われたい訳ではないんだけど……。














食べに行ったご飯屋さんでは、お手洗いに行っているうちに会計を済まされていた。





流石に申し訳ないからとお金を渡そうとすると、じゃあこの後の入場料を払ってくれと言われた。










割に合わない気がする。













元の白布さん戻って欲しいっていうのもなんだか違う気がするけど、なんだかむず痒くてしょうがない。











あなた「あの、別に……そこまで優しくしてもらわなくても大丈夫ですから、ね?」


白布「?あぁ、嫌だったって事?」


あなた「いや……!そりゃあ優しく扱ってくれるのは嬉しいけど、なんか天気悪くなりそ_____ふむぎゅっ、」









間髪入れず伸びてきた手が私の頬を下から掴み、発言をやめさせた。





むにゅむにゅと頬を触って、変幻自在に動く私の表情を見て微かに口角を上げる。








白布「こうでもしないと好きって分からない癖に。」


あなた「っな"……、」









……言い返せない。









観光地巡り、それから有名な神社にお参りに行ってから、暗くなってきたのでホテルへ帰ることにした。









悪態を吐かない白布さん……なんて話しやすいんだ。








白布「そういえば、倫太郎とのデートは新幹線乗り過ごしたんだって?」


あなた「……ほんと、どこまで仲良くなっちゃってるんですか、」








まさかこの2人が気が合うなんて……。




確かに、倫くんとのデートは新幹線を乗り過ごし大幅に予定が狂ってしまった。



あれは申し訳ない事をした……。








あなた「倫くんも、白布さんの事言ってましたよ。」


白布「なんて?」


あなた「……白布さんとは泊まるくせに、って。」


白布「なんだそれ。」









フッと息を鳴らして、ポケットに手を突っ込む。




白布さんって頭もいいし、初対面の人とも気兼ねなく話せるし、努力家だし……。




どんな大人になるんだろうか。









なんとなく、白布さんはあと数ヶ月もしたら、可愛い彼女さん見つけてそうだな、なんて思っちゃって。









あなた「白布さんって、夢とかあるんですか?」


白布「夢って?」


あなた「将来の…………?」


白布「……ある。」


あなた「え、それって_____、」


白布「でも言わない。お前にだけは特に。」


あなた「なんでそこだけ通常白布さんに戻っちゃうんですか!」







まったく……。




でも、そっか。





高校2年生……夢、。






多分、白布さんならどんな事でも叶えちゃう。









固い夢を持って、進んでいく。









あなた「……すごいなぁ、」


白布「?……それを言うなら、お前だって無茶苦茶なやり方で夢追いかけてるんだろ?」


あなた「無茶苦茶って……。そう、ですね……でも、」









私の、夢は……。










あなた「確かに、アナリストになるんだって息巻いてるけど……誘われて紹介されて、風の向くままに乗ってるだけっていうか、」









なりたくない訳では勿論なくて、ただ……。





あまりに弾丸的に決まった夢で、私はそれに本当に人生を費やしていいんだろうか、とか。









あなた「バレーを観て考えているのが好きで、それが仕事になるんなら嬉しいけど……それだけで、皆から褒められるような事、なんにも……、」


白布「…………"それだけ"?」


あなた「いつか、現実見ないとって……思う日が来ちゃうんじゃないかって。高校中退してまで好きな事を追いかけて、それで叶わなかったとき……私に残るものって_________、」


白布「…………。」











今更後には引けない。



引くつもりもないし、それにここまで応援してくれた皆に、こんな弱音は吐かないつもりでいた。






でも、白布さんの大人な考え方とか、筋の通った発言は知っていたから……。







堅実に夢を追いかけていくんだろうと思うと、なんだか自分が猪突猛進すぎるんじゃないかって思ってしまって。









白布さんはそれから黙り込むと、何も言わないままホテルに到着した。

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