第451話

あざとい花巻姫
28,412
2020/09/05 12:01
岩泉「あなた、そろそろ劇行くか?」


あなた「あ、ほんとだ」




1年の展示から、2年の屋台まで見て回ってリハーサルの時間となった。


1組の教室に送ってもらい、お兄ちゃん達に激励を送ってから別れる。




花巻「お〜王子様っ。衣装合わせすんぞ〜」


あなた「うん_______って、お兄さん!?」




教室にいたのはいつかの花巻くんのお兄さんで、なんとなく理由は想像がついた。





あなた「……それ仕事にしてる人に衣装作ってもらうってチートじゃない?」


花巻「いいんだよっ。使えるもんは使わねぇと!」




苦笑しているお兄さんに同情しながら、着付け担当の女の子と一緒に別室に移動した。





?「私、貴大くんと同じクラスの小鳥遊ヒナです。よろしくね〜」


あなた「あ、よろしくお願いします……」



……小鳥遊って、珍しい苗字のはずなんだけど?



ヒナ「ね、貴大くんとはどういうアレなの?」



着替えてから髪をセットしてくれて、その間に雑談。



あなた「あー……私、5組にお兄ちゃんがいて。よく家に遊びに来るので……」



ヒナ「え、もしかして岩泉くんの事?」



あなた「あ、はい」





お兄ちゃん有名……?


とか思ったけど、そりゃ3年も同じ学校にいるんだもんね。




ヒナ「そっかぁ〜。なんかただならぬ雰囲気あったからさぁ」


あなた「「ただならぬ」……?」




「うーん」と考えて、「なんかね、」とヘラっと笑った。





ヒナ「どこの高校なの?青城じゃないでしょ?」


あなた「あ、はい。烏野なんですけど」


ヒナ「ほんとっ?え、もしかして1年生?」


あなた「はい、そうですけど……」


ヒナ「私、烏野の妹がいるんだ〜。吹奏楽部なんだけど……流石に知らないか」





……あれ?




あなた「え……もしかして、1年4組、ですか?」



ヒナ「!そう!!え、もしかして同じクラス?」



あなた「あは……私、烏野の文化祭で小鳥遊さんに衣装着付けてもらったんです」



ヒナ「文化祭……、あ!じゃあ貴女があの!?」




「あの」……?




ヒナ「(あ、ファンクラブの事は知らないみたいね。なるほど、この子が……)」



あなた「でも、なんかすごいですねっ」



ヒナ「え?」



あなた「私、小鳥遊姉妹に衣装合わせてもらってるんですもん。勝ち確ですよっ」





はにかむと、鏡越しにヒナさんの頬がボワッと赤くなった。


……え、なぜ?






ヒナ「(可愛いかよ……!//)よし!私頑張っちゃう!」














貴大「お〜、衣装ピッタリだったr____って、ぅわ!イケメンか!?」


あなた「何その反応……」




教室に戻ると、花巻くん含め1組の人達にワッと驚かれた。



まぁ、さすが小鳥遊さんのお姉さん……って感じ。





私の演じるアリック王子は、血も涙もない暴君。


しかしたった一つだけ……花だけは、幼い頃からずっと変わらず愛していた。


幼い頃、厳しい母親から逃げて泣いていた湖のほとりで出会った少女がくれた花は十数年経っても枯れる事なく輝いている。




しかしある日、その花が途端に枯れ落ちてしまった。



アリック王子は悲しみ、仕事を投げ出して家来と共にいつかの湖へと向かう。


道中出会った小人たちが囲む棺の中に、魔女に食べさせられた毒林檎によって死んでしまった彼女を見つける。





……という、白雪姫をアレンジした台本。





1組の幕は大トリらしく、体育館に移動して他クラスの劇を鑑賞した。




まずはお兄ちゃんのクラス。




老婆役「"こりゃたまげた!岩から男の子が生まれたわぃ"」



生まれたてデカすぎでしょ。



老爺「"岩太郎と名付けよう。ほっほ、岩太郎や。ワシらは鬼ヶ島の鬼に困っとるんじゃわ。退治してくれんかの?"」



え、生まれたての岩太郎にそんなの頼むの?


なかなかのドS爺さん。 





岩泉「"おう。納豆で手を打とう"」





男前岩太郎。


納豆は持ち歩くのキツイって。







とりあえず突っ込みどころ満載の『岩太郎』や、徹くん演じる武将に出血多量で倒れる人が続出する演幕も続きいよいよ終盤。



私たちの番になり、舞台裏に集合した。






花巻「お〜し。んじゃサクッと優勝もらっていこう」


「「「おー!」」」





軽いな1組。




花巻「あなた」




花巻くんが、台本の最後のページを開けて指差す。


ラストシーンで、花巻姫が目を覚ますところだ。





花巻「チューしていいからな?」


あなた「はは、しない」






何言ってんだか。




〈続いて、3年1組によります。劇『花巻姫』です〉



ブーーー、とブザーが鳴り、幕が開いた。




花巻「おし、いってくるわ」



軽快にステージに踏み出していった女装花巻くん。


瞬間笑いが起きた会場に、1組の皆は心なしかホッとしたような顔になった。






あなた「"花が枯れた。これと同じものを持ってこさせろ"」







あなた「"こんな物で俺が満足すると思っているのか!即刻その者の首を跳ねろ!!"」







中々の暴君具合を演じてから、劇も大詰め。



湖に向かう途中抜けた森で、小人に出会う。





小人「"王子様っ。花巻姫を救ってください!"」



あなた「"「花巻姫」……?"」





たらられた先にある棺の中に、横たわる女性。


まぁ花巻くんなんだけど、そんなことも忘れるくらい女装がよく似合っている。



綺麗な顔……。



観客からは見えないけどちゃんと目を閉じて、本当に死んでしまっているのではないかと思うほどの演技力。




あなた「"あぁ……。あの日、俺にあの花をくれたのは、そなただった……。頼むから、目を覚ましてくれ"」


小人「"王子様……!花巻姫を、どうか……!!"」





小人役にコクりと頷いて、棺の中に顔を近づけた。



会場から、息を飲む人たちの気配がする。




いや、ほんとにキスなんてしないから……。









とりあえずスレスレの所まで近付けて、花巻くんの肩を気付かれないようにポンと叩いて顔を離す。
















__________瞬間。









グイッ




あなた「っ、!!?」













目を閉じたまま、安らかな寝顔を向けていたはずの花巻くんの大きな手が私の手首を掴んで。












自身の方に引き寄せるので、バランスを崩して棺の中に落ち込む。








そのまま、私の唇は再度花巻くんのそれに近づいて……





















__________チュ、












半ば強引に______触れた。

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