月島𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あなた「もう…………帰るね」
月島「…………」
荷物をまとめて、貼り付けたぎこちない笑顔を僕に向けた。
ここで、"ごめん"って謝罪するのは違うって思うから。
月島「……うん」
あなた「…………また、学校で……ね」
視線を泳がせてヘラッと笑う。
それだけで胸が痛くて、頷く事しかできなかった。
玄関で、靴を履くあなたの小さな背中を見ながら。
自分がした選択が正しかったのか、何度も自問自答を繰り返した。
それでも結局、なってしまった事は変わらない。
あなた「なんか……その、しばらくはちゃんと、話せないかも……だけど、私も、頑張るからっ」
靴紐を結びきって、荷物を持ち上げた。
僕に背を向けたまま、「じゃあ……」と零す。
______________、
ドサッ
あなた「!…………月島、く」
月島「……最後に、こうさせてほしい」
後ろからその小さな体を包むと、肩をビクッと震わせて荷物を足元に落とした。
髪からはいつもと少し違う香りがして、だから余計に胸が締め付けられた。
月島「…………ありがとう」
あなた「……、」
月島「ちゃんと…………取り戻しにいくから」
矛盾だらけの僕を受け入れてくれたのは、きっとキミだから。
そんなキミだから、僕は好きになったんだけど。
謝るのは違うから、感謝の意を伝えた僕に。
あなた「……あのね、」
あなたは僕の腕にふわっと触れて、しっかりと伝えてくれた。
あなた「私が辛い時……悲しい時、どうしようもない時……必ず月島くんが傍に居てくれた。何度も……何度もそれに救われたんだよ。だから_____」
ゆっくりと頭を傾けて、僕を見上げてから。
愛しい顔でニシシと笑った。
あなた「こっちこそ……"ありがとう"だよっ!」
月島「〜っ、……」
やっぱり僕は、あなたの事が。
好きだと思った。
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あなた「ただいま……」
予定よりずっと早い帰宅。
家に入ってすぐに、玄関に脱ぎ散らかしてある大きいスニーカー達を見て皆が来ているんだと確信した。
及川「え!?嘘っ、あなただ!!」
花巻「おい及川!!コントロール引っ張んな!」
リビングに入るとこちらに気が付いた徹くんが駆け寄ってきて、花巻くんが慌ててコードを引っ張りゲーム機を取り上げる。
岩泉「あなた?帰り夜になるって言ってなかったか?」
驚いた顔のお兄ちゃんと、その向こうでマシュマロを口に入れる松川くんと目が合った。
あなた「うん……早く解散になったんだ〜」
お兄ちゃんには綾乃の家に泊まりに行くと嘘を吐いていたから、笑って答えた。
あ、そっか。
もうこれからは、こんな嘘吐く事自体なくなっちゃうんだ。
岩泉「……あなた?」
あなた「え?」
岩泉「……喧嘩でもしたのか?」
あなた「……」
笑顔を作っていたはずなのに、お兄ちゃんには簡単にバレてしまって。
それは1番に駆け寄ってきていた徹くんも同じだったようで、心配そうな顔で私を見る。
あなた「や、普通にっ。綾乃金欠だったの忘れてたらしくて〜もう困っちゃうよ!」
手を叩いてあははと笑うと、附に落ちない様子ながらも「そうか」と返してくれた。
あなた「じゃあ私2階に居るね。皆ごゆっくり〜」
冷蔵庫からリンゴジュースを取り出して自分の部屋に向かった。
いつもなら一緒にゲームを楽しむ流れだけど、流石にそんな気分でもないし。
部屋に入って、ジュースを開けて一口飲んでから机に置いて、荷物の片付けを始めた。
この荷物を詰める時は、まさかこんな事になるとは思ってもなかったなぁ。
・
岩泉「昼飯どうする?」
花巻「寿司」
松川「ガスト」
岩泉「珍道中行くかインスタントラーメン作るかどっちにする?」
松川「え、ラーメン確定?」
花巻「なら普通に珍道中だろっ。俺ラーメン腹」
岩泉「「寿司」はどこ行ったんだよ。じゃあ俺あなたに声かけてくるわ。行くだろ」
及川「あ!!!」
花巻「なんだようるせぇ……」
及川「俺昼甥っ子のお守り任されてるの忘れてたよ〜……しょうがない、皆で行ってきて〜」
岩泉「猛も連れてくか?」
及川「いや、おばちゃんがオムライス用意してるらしいからいいよ〜。とりあえず俺はラーメンパスでっ」
岩泉「分かった。あなた誘ってくるわ。片付けといてくれ」
花巻「うぃ〜」
・
・
岩泉「行かねぇってさ。軽く食べてきたらしいわ」
花巻「まじかぁ、んじゃ3人だな」
松川「あなた、体調は?」
岩泉「いや、それは治ってる。まぁ久々の泊まりで疲れたんだろ……んじゃ、行くか」
及川「岩ちゃん、トイレ借りていい?」
岩泉「クソすんなよ」
及川「しないよもうっ!!!」
岩泉「んじゃ俺ら先出るわ。じゃーな」
及川「は〜い。楽しんでね〜」
花巻「岩泉が「クソ」って言うから"クソするクソ川"で笑いそうになっただろ」
岩泉「俺のせいじゃねぇよ それ」
及川「_________さて、と」
・
珍道中かぁ……行けばよかったかな?
そしたら少しでも気が紛れるかなぁ……?
あ、でも今お兄ちゃん達家出てったな。
ま、いっか……ちょっとお昼寝でもして……ゆっくりしよう。
___________コンコンッ
あなた「……?誰?」
お兄ちゃん達はもう家出たはず……お母さんが帰ってきたのかな?
一拍置いてゆっくり開いた扉の先立っていたのは、正真正銘徹くんだった。
あなた「あれ……?ラーメンは?」
及川「お腹空いてないからパスした〜。っと、」
あなた「?」
徹くんはいつも通り部屋に足を踏み入れようとして出した足をなぜか引っ込める。
首を傾げた私に、部屋と廊下の境目であるレールを指さした。
及川「俺、彼氏持ちの子の部屋に足を踏み入れない主義だからさっ」
あなた「…………じゃあ、入ってもいいy____」
月島くんとは別れたし、徹くんは数少ないこの秘密を知っている人だから、ちゃんと言わないといけないと思った。
驚かれると思いながらも出た言葉は、徹くんの台詞とズイッと入ってきた足音にかき消された。
及川「________振られたんでしょ」
あなた「!………………どうして、?」
私が月島くんのお家に行っていた事も、何も……言っていないのに。
徹くんは、全てを見透かしたかのようにニコりと笑ってゆっくり部屋に足を踏み入れた。
及川「俺が何回"好きな子"に振られたと思ってんのっ?舐めたらだーめっ」
茶化すように戯けて見せてきて、そして私の頭を大きなその手で撫でた。
及川「だから今日は、俺が胸を貸す番かなって、ねっ」
そう言って、ゆっくりと体勢を低くしてから。
言葉が上手く出てこない私を、"何も言わなくて良いよ"と諭すように優しく、抱きしめた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。