ミスコンに優勝した侑が、景品の屋台無料券を片手に戻ってきた。
それから5人でまた集まって、券を使って屋台を回った。
時間はあっという間に過ぎていき、昼近くなってきたので私は稲荷崎高校を後にした。
侑「またな」
あなた「ん!今度こそ、春高で!!」
皆に手を振ってお別れし、宮城へ戻った。
そしてまた、東京遠征が訪れる。
木兎「へぇーい!あなた!!第3体育館行こーぜ!」
あなた「……」
いつも通り、練習後にハイテンションで寄ってこられた。
黒尾「……(どーせまた、前みたいに「西谷先輩」んとこ行くんだろ)」
あなた「……はい!行きましょー!!」
黒尾「!?」
チラッと西谷先輩を確認すると、やっぱり私のことなんて見てもなくて。
私は元気だと証明するためにわざと大きく声を出して、第3体育館に向かった。
月島「……すごい不自然だよ」
あなた「……あれ、やっぱり、わざとらしかった?」
体育館に向かい、前方で大騒ぎする木兎さんを見ながら隣の月島くんに声をかけられた。
月島「ちょっと、ね……」
あなた「あは、まー、いいっしょ!」
ケラケラ笑って見せて、木兎さんを追いかける。
あなた「木兎さんっ!体育館まで競争しましょ!!」
木兎「おぉ!?なんだあなた元気じゃねぇか!行くぜぇぇぇぇ!!」
やばい滅茶苦茶速い。
当たり前に追い付けずに、ぜぇぜぇいいながら到着。
ネットの準備をして自主練を始めた。
木兎「おらおらツッキー!!そんなんじゃ牛若に勝てないぞぉ!?」
月島「……誰も勝つなんて言ってません」
木兎さんのハイテンションを見てたら、不思議と笑顔になれる。
日向みたい……。
食堂が閉まる直前になって、片付けを始めた。
黒尾𝓈𝒾𝒹𝑒.°
黒尾「な……なぁ、赤葦?」
赤葦「……なんですか?」
ものすごい、不自然なまでの元気さで木兎と片付けをこなしているあなたを指さし尋ねた。
黒尾「何かあったと思うか?」
赤葦「……思いますね。とても」
やっぱり……?
『あなた、元気ない。目が死んでる』
研磨が烏野との試合後にそう呟いていて、まさかと思ったんだけどなぁ……。
黒尾「ちょ、ツッキー」
月島「……なんですか?」
ポールを運ぶツッキーに近寄って、一緒に持つ振りをする。
黒尾「まさか……あなた、失恋したのか?」
月島「っ…………………………知りませんよ」
おうおう……明らかに動揺しちゃってまぁ……。
なるほど、ね……。
あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°
晩御飯を食べ終わって、お茶を買いに自販機へ向かった。
『不自然』
……だってそうでもしないとやってられんもん!!
西谷先輩と全然話せてない日々。
こんなことになるなら……無意味な期待なんてしなければ良かった。
期待してなかったら、あの時あんなに落ち込んだりしなかったはずだもん……。
お茶を抱えて、ふと渡り廊下に目をやった。
清水先輩がビブスの入った籠を運んでいる。
その姿さえ、美しくて……。
勝てるはずなんて、なかったんだよなぁ。
手伝おうと向かった、その時。
西谷「潔子さん!手伝いますっ!!」
あなた「~っ!!」
清水先輩を後ろから追いかける西谷先輩の姿に、思わずその場に隠れた。
しゃがみこんで、2人のやりとりが耳に入る。
清水「大丈夫。それより髪乾かして。風邪引くから」
西谷「心配してくれるんスか!!?平気っすよ!」
清水「あ……っちょっと、」
西谷「どこまで運べばいぃすか!?」
清水「……ありがとう」
西谷「っ……////」
あー……。
耳、塞いでればよかったなぁ。
……ポンッ
しゃがみこんだまま動けなくなった私の肩に、誰かが触れた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!