第450話

俺が守るから
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2020/09/04 14:10
「"アリック王子。先日の宮廷花壇で白百合の花弁が落とされていた件ですが……"」


あなた「"不届き者の正体が分かったか。今すぐ指し示せ"」


「"それが……コンベネット伯爵が伝書鳩を逃してしまった際に折られた物だと発覚いたしました"」


"コンベネット伯爵!?……おい、流石にどんな冷酷無慈悲の王子でもあの方には……"


あなた「"そうか。地下牢へ送っておけ"」


「"!!?で、ですがアリック王子……"」


あなた「"掟第28条『いかなる理由であれ花を傷つけた者は刑に処す』……分かっているだろう"」


「"!!承知いたしました……"」


「はいカット!!!やばい滅茶苦茶いいねぇ!」



丸めた台本で手をバシッと叩いた監督役の女の子が満面の笑みを浮かべた。



花巻「あなた〜いけるな!」


あなた「や、まだやるとか言ってない……」


花巻「にしてはしっかり演技してたじゃねぇかっ。お前男装イケるなやっぱり〜」




はぁ……。


結局押し切られ、最終リハーサルの時間までに戻る事を約束して解放された。







もう……散々だよ。






及川「あっはははは!それで王子役やるんだ?」



あなた「笑い事じゃないからね!?もう……男装はあれでおしまいだと思ってたのに」







また黒歴史だよ……まぁ、自分の学校でするわけでもないしまだマシだけど。



徹くんと、お兄ちゃんが教室から出てくるのを待ちながら談笑。



ちなみに徹くんのクラスは勿論主役徹くんで、三国志をやるらしい。


松川くんのクラスは宝塚の物語らしくて、松川くん自身は劇には出ないそう。




……ますますどうして私が出るんだろう。




岩泉「わりぃ。待たせた」


及川「いいよいいよ〜。むしろもうちょっとゆっくりでも良かったけど__ごめんなさい」





焦ったように教室から出てきたお兄ちゃんに睨まれた徹くんがいつものようにすかさず謝って、やっと文化祭を見て回れる事になった。



岩泉「あなた、見に行きたいとこあるか?」


あなた「ん〜……」




案内図を見ながら廊下を歩き、流れで1年生の展示を見る事になった。


英のクラスは確かお化け屋敷だったよね……。


金田一のクラスは何やってるんだろう。




「きゃ……!嘘、及川先輩がいる!!」
「嘘ほんとに!?ちょっと!!誰か連れてきてよ!」
「まって!?女の子と一緒にいる!嘘でしょ……!?」





……騒がしくなってきたな。





「及川先輩っ。うちのクラス寄ってってください!」

「私のクラスも!すっっごい怖いお化け屋敷やっててぇ〜」





何人か、遠巻きで見ていた数人の中から駆け寄ってきた女の子たちが徹くんに群がった。


こういう光景、中学以来かも。




やっぱり人気者なんだな〜。





及川「えぇ?あー……ごめんね、また後で行くねっ」


「え〜っ」

「……って、あれ?岩泉あなた?」



あなた「っ、!」



見物に来た人たちの中に、見覚えのある顔が。


北川第一にいた人だ。




岩泉「?」


及川「どーしたのっ?」


あなた「あ、えっと……」


「きゃ〜久しぶり!あなたちゃん元気だったぁ?」


あなた「え……」





お兄ちゃんに心配そうな顔をされた瞬間、その子達の態度は激変。


対して仲良くもなかった_______むしろ虐めていた相手に、よくもそんな友達みたいな態度取れるなぁ。





「ね、ちょっとだけ話そうよ!いいでしょ〜?」

「及川先輩っ、おにーさんっ。あなたちゃんちょっとお借りしてもいいですかぁ?」

あなた「え……?」




なんで急に話なんか……。


嫌な予感しかしないし、断りたいとお兄ちゃんに視線を送る。




岩泉「今は_______」


及川「おっけーおっけ〜。じゃ、俺たちそこで待ってるからっ」


岩泉「!?おい、」


「ありがとうございま〜す!」





断ってくれそうになったお兄ちゃんの言葉を塞いで、徹くんがぐいぐい背中を押して向こうのほうに行ってしまった。


2人には中学の時の嫌がらせの事とかあんまり言ってないし、仕方ない……。




「じゃ、話そっか」




途端トーンを落としたその子は、冷たい目で私を見る。


徹くん達に気がつかれないように、巧妙に。





「ね、まだ及川先輩の周りうろついてんの?」


「てかさ、国見くんと別れたんでしょ?何のこのこ文化祭来ちゃってんの」


あなた「…………」




高校生になって、椋樺達の事もあって。


確実に強く慣れていると思っていたのに、やっぱり中学の人はそれだけで怖く感じてしまう。




「黙ってないでさぁ……帰れよ」


「そうだよ。ウチの文化祭邪魔しないでくれない?」


あなた「…………文化祭に来るのくらい、私の勝手___」


「はぁ?なに調子づいた事言ってんの。またいじめるよ」


「あははっ、それでさぁ、すぐ男に泣きついて浮気して?影山くんも災難だよね〜こんな悪女に騙されてっ」


「あはっ、ほんとだよ!知ってる?国見くん今、この子といい感じなんだよ〜?」


……英?


「ちょっとやめてよ〜」


「あんたみたいに浮気しないし、男にばっかり媚び売るような人じゃないからねぇ〜」


あなた「…………」




ねぇ、どうしてそんなに……別々の高校になってまで、私の事を疎むの?





「あーあ。もういいわ。飽きた。あんた今すぐ帰って」


あなた「……なんで、」


「「なんで」じゃなくてさぁ。ウチらが帰れって言ってんの。帰れよ!」


あなた「っ、」




その子の手が、私の方へ伸びてきて。


中学での出来事が脳裏をよぎって、思わず目を瞑って身構えた。





グイッ






私の体は途端に、後方へ引き寄せられて。





及川「……随分楽しそうに話してるとこ申し訳ないけど……そろそろ俺たちも回るから、さっ」





営業スマイルの徹くんが参入してきて、その子達はグッと伸ばした手を引っ込めて笑顔を作る。




「えぇ〜もうちょっといいじゃないですかぁ!」


「及川先輩ズルーい!私もあなたちゃんと話したいぃ!」


あなた「……、」




あぁ、胸糞悪い。


どうしてこうも……この人たちは。




及川「ん〜……そうしてあげたい所だけど、もう時間だからっ。ごめんねぇ」






徹くんはこの人達の事信じ込んでるみたいだけど、もういっそこの場で全部を曝け出してやりたい。


この人たちは私を虐めてたんだよって。


朝、学校に行ったら当たり前みたいに1番に上履きを探すところから始まって。


靴箱に入っているゴミを片付けてから、落書きされて倒されている机や椅子を起こして重い鞄から教科書を取り出して。


雑用は暗黙のルールで全部私。


ちょっといい点数とって褒められたら放課後には呼び出されて。


カゲくん達にバレないようにアザを隠して虐められている事を隠して。


家に帰って学校が楽しいと言い。


1人になって泣きたくなって。


朝は布団で何度も泣いてからやっと起きて。


また繰り返し。





そんな日々を送らせてきていた人たちなんだよ……。


だけど、それを言って徹くん達に怒ってもらったってしょうがないから。



今この場を離れられるなら、もう……なんでもいいや。




及川𝓈𝒾𝒹𝑒.°



及川「ほら、いこ」


あなた「……うん」





……やっぱり、気のせいじゃなかったんだね。


中学の頃、あなたが俺や国見ちゃんと関わっている事でいじめを受けていた事。




薄々気が付いていたけど、本人がずっと隠してきていたから、気がつかない振りをしてきた。




でももう、学校での立場とか、そんなのないし。




テストする感覚であなたと話させてあげたら、やっぱり様子がおかしかった。




及川「________あ、そうだ」



あなた「?」





俺がその子達のほうに振り向くと、あなたも同じように顔を向けようとしたので前を向かせて、俺だけ後ろを見やる。





「なんですかぁ?」





及川「これからもあなたと_____"仲良く"してあげてね」



「〜っ、!?……、」





女の子を睨むのは、多少気が引けたけど。



何より自分の1番大切な人を傷つけられて、平静でいられるわけがない。





眼に力を込めて睨みを効かせると、怯えたように顔を青白く染めて後退りしていった。





あなた「徹くん……?」







心配そうに俺を見上げるので、「大丈夫だよ」と頭を撫でた。





  





大丈夫だよ。











もう、手は出させないから。

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