第476話

深まる信頼と、恋心
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2020/10/17 12:08
黒尾「それって……「血が繋がってない」ってこと……?」




私の言葉に、黒尾さんは一瞬驚いたような表情を見せたのをすぐに戻して、躊躇いつつそう問うた。




あなた「……ううん。厳密には、繋がってるんだけど。……半分。」


黒尾「「半分」……?」


あなた「"異母兄妹"なの。私達」


黒尾「……「異母兄妹」…………」




復唱して、足元に視線を落とした。






岩泉さと


お兄ちゃんのお母さんで、私の父の元妻。


お兄ちゃんを産み落として少ししてから、病気で亡くなったらしい。



岩泉なみ


岩泉聡美が亡くなった後、お父さんと結婚した今のお兄ちゃんのお母さん。


そして、私の産みの親。



私とお兄ちゃんは、父は一緒だけど母が違う。


所謂"異母兄妹"ってやつ。




私がそれを知ったのはわりと幼い頃で、多分小学生の時だった。



当時はあまりよく分からなかったけど、「"普通の兄妹"じゃないってことなんだよ」と噛み砕いて説明された時、私は酷く悲しんだのを覚えている。



お兄ちゃんの事が大好きだったから、その関係が一気に否定されたような気がしたんだと思う。




でも……。





『誰がなんて言っても、俺の妹はあなただけだ!』


『俺らが世界一仲良しな兄妹なんだから、それでいいだろっ?』




1人泣きじゃくる私に手を差し伸べてくれたのは、お父さんでもお母さんでもなくて。



1番、傷ついていたであろうお兄ちゃんだった。




お母さんもお父さんも、複雑な事情の上幼い私に上手く説明ができず、慌てていたんだろう。


でもお兄ちゃんはお母さんが本当のお母さんじゃないと知っても、泣くこともせず、ただ私を抱きしめてくれた。




『俺ら半分血が繋がってるなら、もう半分で助け合えたら最強じゃん!』




やんちゃして傷をつけた頬の絆創膏が、笑顔と共に動いて。



私はその時、もっともっと、お兄ちゃんが大好きになった。






小学校の夏休みの宿題で、"明るい家庭作り"の課題が出た。


私は、お兄ちゃんの事について書き、それが賞を取った。




学習発表会で発表する事になり、大勢の前でそれを読んで。



それが終わってから、すぐにお兄ちゃんが頭を撫でにきてくれた事が、とても嬉しかった。







だけど_________。





『それでね、私今度妹が産まれるのっ』

『わあ、明美ちゃんいいなぁ〜……』

『ちょっと!ダメだよ!!』




給食中、何気ない談笑の中で学級委員の真面目な女の子が声を荒げた。


何事かと視線が集まる中、彼女は言った。





『あなたちゃんの前でそういうお話したらダメなんだよ!おかーさんが言ってたもん。言っちゃダメなんだよ!』




"かわいそうだから"。




その時は、すぐに担任の先生がその子を制して終わった。


私はただ純粋に、"私って「かわいそう」なのかな?"と疑問に思っていた。






ただ、考えれば考えるほど。




私とお兄ちゃんの関係を、全くの赤の他人に否定された気分で。




私が作文を書いたのは、この境遇を誰かに同情して欲しかったんじゃなくて、ただ自慢したかっただけ。





______私の、世界一大好きなお兄ちゃんを。



その日の、彼女の一言は徐々にクラスを超えて、学年を超えて浸透していった。


廊下を歩く度、お兄ちゃんと話す度、視線を感じるようになったし下手なことを言わないように気をつけられた。




まるで私たちが、とても弱い人間かのような扱いで、私はそれが悔しかった。







だって私たちは、他の誰にも負けない"最強の兄妹"なんだから……。











お兄ちゃんのことを話し終える頃には、黒尾さんはもうチャラけた表情を隅々まで消していた。


そして、重い面持ちで話し終えた私を心配そうに見つめる。




あなた「……でも、だからって何も変わらない。私にとって1番大好きでかけがえのない兄は、お兄ちゃんだけだから」


黒尾「……そうか。言ってくれてありがとな」




どちらかと言えば私は聞いてもらった方なのに。


黒尾さんに感謝されて少し驚いた。




あなた「ううん……。なんか、不思議」


黒尾「何が?」


あなた「黒尾さんにはなんでも言えちゃう……。今まで、誰にも言ってなかったことなのに。なんでなんだろ?」


黒尾「……知らねぇ。"程よい他人"だからじゃん?」


あなた「……」




それ、前賢太郎くんにも言われたなぁ。


"程よい他人"かぁ。




あなた「私、黒尾さんのこと"他人"なんて思えないよ」


黒尾「え?……じゃあ、何」


あなた「んん……なんて言ったらいいのか分かんないけど、でも、違う。なんか……大人になって、一緒にお酒飲みたい相手」





上手く言葉にできなくてそこに落ち着くと、黒尾さんはポカンと口を開けて少しの間黙り込んだ。



そして、




黒尾「ぷっ………はは!!なんだよそれ……!」




お腹を抱えて笑い始めて、体を前にかがめた。




黒尾「っと…………ずりぃな……


あなた「??」





何やらボソッと零してから、勢いよくその場を立った。






黒尾「じゃ、その"お試し"って事で……観光しに行くかっ」


あなた「わっ、」





私の手を取ってグイッと寄せられ、力強いその腕の中に収まった。





黒尾「どこでも好きなとこ連れてってやる」










そう言って微笑む黒尾さんの表情は、いつもよりなんだか清々しいほどに含みがなくて。








……"むしろ含みが無さすぎて不吉"とか言ったら、怒られるかな?

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