前の話
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黒尾𝓈𝒾𝒹𝑒.°
いつもいつも……。
俺が何かしようとすると、どうも上手くいかない。
泣かせてしまう。
本当はそんな事、したい訳じゃねぇのに。
なぁ、あなた……。
好きだ。
お前が思ってるよりずっと、ずっと……。
だからこそ、本当に好きなやつと付き合って、幸せになってほしいんだ。
綺麗事?偽善??
何て言われても構わない。
でも、心から大切な人が泣くほど辛い恋をしてるって気付いた時から……。
俺はお前に、笑っていてほしいだけなんだ。
それが西谷の___俺じゃない誰かの隣なら。
喜んで汚れ役を引き受けよう。
なぁ、あなた……。
俺のひねくれた性格を、含めて全部出会えてよかったって言ってくれたあの日から……。
俺の心ん中全部お前のものなんだよ。
散々傷つけた。泣かせた。
なのにずっと、笑顔を向けてくれた。
ヒマワリみてぇなお前の笑顔に、何回救われたと思う?
幸せになってくれ。
いや、でも……ここで本音を言えるなら。
願わくば……“俺が”、幸せにしてぇんだ。
あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°
黒尾「お前が……もう、」
ますます震えた声が、耳から直に脳を揺さぶる。
黒尾「俺に振り向く事って、ねぇの……?」
あなた「____っ、」
“ない”なんて……言いきれる訳がない。
だって今、この瞬間も……揺らいで揺らいで、仕方ないんだから。
でも、こんなこと……。
黒尾「俺の事傷つけるとか、この先の俺の事考えて、とか……そういうのは抜きだからな」
口を開けた私はその言葉に、もう一度つぐんだ。
黒尾さんには、お見通しだ……。
あなた「でも……」
言葉を濁した私を抱き締める腕を、そっと緩めて。
スッと離れてから、やっぱり赤い目元を優しく綻ばせた。
黒尾「なぁ、俺ら……“そういう相手”だろ?」
あなた「……!」
最初っから、馬が合わなかった。
ううん。だって、清水先輩目当てだったもんね。
だけど、認めさせてやりたくて。
必死に頑張って、その内に話しててすごく楽しくて。
バレー以外の、別の場所で会ってたら……きっと、良い友達になれたんだろうなって。
“そういう相手”
思ったこと、包み隠さずに言える相手……。
思えば1番、心を許してた部分もあったかもしれない。
黒尾さんになら、多少塩対応でも楽しいかな、とか。
毎回の合宿で毒舌に言い合うの、ちょっぴり楽しみだったりして。
あなた「…………分かん、ない」
だから私は、今の気持ちをそのまま言葉にした。
黒尾「それは…………この先、俺にもチャンスあるってことだな」
あなた「~っ……わ、かん……ない」
人の気持ちがどうなるかなんて、分からない。
ううん、自分の気持ちでさえ分かんないの。
だって、そうでしょ……?
あの日、3年前。
あの試合で出会った西谷先輩に、こんなにも溺れていくなんて思ってもなかったんだもん。
黒尾「……絶対だ」
止めどなく流れ続ける私の涙を長い指ですくって。
黒尾「何ヵ月……何年、何十年かかってでも……」
そしていつもの、いたずらっ子の笑顔で。
黒尾「絶対、お前の“1番”に、なってやるからな」
あなた「~っ、/」
ニシシと歯を出して、無造作に私の頭を撫でた。
黒尾「覚悟しとけっ」
黒尾さん……卑怯で、ごめんなさい。
突き放せなくて、ごめんなさい。
黒尾さんはやっぱり、私の葛藤を読み取って……。
黒尾「ふっ、めっちゃ不細工~っ」
そう言って顔をしわくちゃにして笑うので、
あなた「るっさいわ馬鹿野郎!」
私も笑って、その鶏冠を叩いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。