あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
岩泉「ただいま」
あなた「おかえりっ。ご飯できてるから、食べよ!」
8時半前、お兄ちゃんが無事帰宅して、帰りの遅い両親を待たず兄妹でご飯を済ませる事になった。
岩泉「及川は?」
あなた「帰ったよ。私も一緒に食べると思ったんだけど……」
岩泉「ふーん……あ、持っていく」
お盆を代わりに運んでくれて、箸だけ運んで椅子に座る。
今日は肉じゃが。
丁度帰ってくる頃を見計らって作ったのでホクホクで、2人仲良く夕食タイム。
岩泉「なぁ」
あなた「んー?」
岩泉「花巻の事怒ってるか?」
あなた「んぐっ、ごほっ」
お兄ちゃん……突然すぎ。
怒ってるか……って、そりゃ怒ってたけどさぁ。
あなた「……ちゃんとお話しないとなんとも言えない……かな」
岩泉「……そうだな。反省はしてた。一応」
……そういえば、ヒナさんが言ってたな。
お兄ちゃんと徹くんに凄く怒られてた……って。
多少同情しつつ、帰り道の徹くんの言葉を思い出していた。
岩泉「そういや、監督と何話したんだ?」
あなた「え?あー……他愛ない話だよ。春高に向けて調整は順調か、とか_______、」
……そういえば。
入畑『あなたにとっても、遠地での公式試合は初めてだろう?慣れない事もあるだろうから自分の調整もしておいた方がいい』
あなた『私の……ですか?』
入畑『活躍するつもりだろ?勿論』
あなた『あぁ……まぁ、私にできる事は精一杯やるつもりです』
入畑『ふ……その目、いつかの及川とまるで同じだな』
あなた『え?』
入畑『及川は分岐点から方向を決めたばかりだが……あなたも同様にそうしなければならない時がくるからね。アイツも3年になってすぐに_____』
あなた『……??』
入畑『…………ああ。そういう事か」
って会話したけど……結局よく分からなかったな。
あなた「あのさ……徹くん何かあったの?なんか監督「分岐点」?とか言ってたし、徹くんもちょっと様子おかしかったし……」
岩泉「…………」
尋ねると、ピタッと箸を止めて掴んでいたジャガイモをお皿に戻した。
そして、私の目をジッと見て。
岩泉「………………まさか、頸噛まれたりしてないよな?」
あなた「っする訳ないじゃん何言ってんの!」
もう……真面目な顔して何言ってんだか。
私の思い過ごし……かな?
岩泉「(あのクソ川……いつあなたに言う気なんだよ)
・
日曜日。
菅原先輩との待ち合わせの前に、部活後私は駅近くの小鳥遊家にお邪魔していた。
一応"嫁候補"______彼女役としてご挨拶に伺う訳だから、変な格好もできない。
始終は説明せずにヒナさんにお願いすると、快く引き受けてくれた。
ヒナ「いらっしゃい〜。ごめんね、妹はまだ部活から帰ってないから……あ、こっちリビングね」
あなた「おじゃましますっ」
時間が限られているのでテキパキと進めてくれた。
結んでいた髪をほどいてスプレーを使ってとかし、アイロンで整えた後アレンジを加えたハーフアップを仕上げてくれた。
丁寧に後れ毛にまで気を使ってくれて、最後に淡いピンク色のリボンを付けてくれた。
加えて制服に合うようなナチュラルメイクまで施してくれて、至れり尽せりに頭が上がらない。
お礼を言い続けていた私に、「劇が成功したのはあなたちゃんのお陰だから安いものだよ」と天使スマイルをプレゼントしてくれた。
・
菅原𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あー……緊張してきた。
あなたなら引き受けてくれると思ってたけど、いざ当日になると自分の大胆さにも心底驚く。
待ち合わせ場所で携帯をいじって気を落ち着かせようとしていると、通知が鳴る。
菅原「やっば……」
落ち着け俺……正直1番緊張してるのはあなただろ。
俺が平静でいないと……。
平常心……平常心…………平常心。
あなた「菅原先輩!すみません遅くなって……」
菅原「!いや、俺も今来たとk_____っ、!!?」
後方からした焦ったような声に、不格好な笑顔を向けて返すと。
そこに立っていたのは正真正銘あなたで、だけど髪型も……雰囲気も、いつもと違って。
あなた「あのあの、仮とは言え菅原先輩の彼女さんって認識して貰うために見た目から頑張ろうと思って……、変、ですか?」
菅原「ヘイジョーシン!!!!!」
あなた「え!?」
やばいやばいやばいやばい!
落ち着け、俺……平常心だ…………!
一旦視線をそらして心を落ち着かせ、心を決めてもう一度目を合わせる。
菅原「、、、、、ん"んっっ////」
よろしくない……とってもよろしくないです。
俺の後輩、可愛すぎて婆ちゃん放っといてこのままデート行きたい……。
あなた「……変……かなぁ、」
恥ずかしそうに前髪を整えながら俺を見つめるあなたは、やっぱりこの世の物とは思えないくらい可愛いし心臓うるさいし。
俺のために……してくれたって事だろ?
やばいもう、記者会見開きたい……。
心底、本当の彼女にしたいと思った瞬間だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!