第733話

救われた言葉に
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2022/12/08 12:00
白布𝓈𝒾𝒹𝑒.°





救われたんだ。



自分よりも歳下で、そりゃあ1歳しか変わらないけど。




高校生と中学生って、本当に大差ないんだって思った。





……いや、それは多分、











俺があの時欲しかった言葉を、年下の女の子に簡単に与えられたから。




だから興味が出た。





もう少し話してみたいと思った。







高校で、このままバレー部を続けて。







きっと合格したら、俺はまたあの子を見つけられる。






だからその時は、バレー部のマネージャーに誘って。







それで、"好きな事に一生懸命な"俺の姿を見せたいって、そう思っていた。















だけど、実際に彼女が入学したのは弱小の烏野。





白鳥沢にも合格しておきながら、その行動は俺の中で理解不能だった。





だって、もっと高みのあるバレーを見ていたいのなら_____取るべき選択は一つのはず。











『勝つのは烏野です。』









いつか自分達のマネージャーとして、俺のバレーを応援してほしいと思っていた相手が。





名も廃れた高校の、実力も伴わないあんな弱小チームに熱心で。








心底苛立った。






どうしても、俺は俺のバレーをアイツに認めさせたいって。







烏野なんかじゃなく、白鳥沢に行っておけばよかったと、思わせて。









見返してやりたかった。








本当は……それだけだった。














『白布さんっ!』








無邪気に笑う笑顔を見て、俺が表に出している感情とは裏腹に脈打つ鼓動も何もかも、段々とその名前が分かってきた。







違う。








俺はバレーをコイツに認めさせて、見返してやりたいだけだ。






そのはずなのに、裏腹な想いはどんどん膨らんで、それとは別に、多分俺はとことん嫌われていって。









好きだと諦めた時にはもう、接し方も分からなくなっていた。












あなた「白布…………さん、?」
















手に入らないはずだった彼女は今、俺のすぐそば。





その気になればどうにでも出来そうな無防備な姿と憂う表情に、胸が締め付けられた。












白布「…………俺は、お前をもっと前から知ってた。」


あなた「……え、?」


白布「五色より、倫太郎より、それよりも前からお前を知ってて、お前の言葉に救われた。」


あなた「こと、ば……?」












あの場にいた俺のことなんて、これっぽっちも覚えてないだろう。






それでも、俺はお前を__________ずっと、












白布「あの時、アイツらが愚弄していたのは_________俺なんだよ。」


あなた「…………アイツら、って……、」












俺と合わせていた視線をずらして、少しして。





それが、さっきまで話していた受験の日のヤツらの事だと分かった途端。











あなた「__________、ッ」


白布「………、!?」












無気力にこぼれ落ちた雫は、頬を伝って。







止めようと閉じた瞳からは、とめどなく溢れていた。








あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°






白布「…………おい、?」


あなた「__________、〜ッ、」









止まらなくなった。





止めようとすればするほど、違うことを考えようとすればするほど。









涙は私の目から溢れて、止まらない。









思わなかった。






私なんかの言葉が、誰かを救えるだなんて。









それも、"あの頃"の私が……。








英とすれ違って、カゲくんも部活で孤立して。





誰にも何も助けを求めることができないまま、ただ一度だけ見た試合で惹かれたバレーだけを頼りに、ひた走っていたあの頃の私は。







人を救えるだなんて、これっぽっちも_____








ううん、それだけじゃない。








白布「なんで泣くんだよ……。」











ここで、こうして。





大粒の涙を助長する白布さんが、"救われた"と言った。






私のあの言葉は、そこで本当の意味を、初めて持ったんだって。






自分に言い聞かせていたあの言葉は、間違いではなかった。





あの頃も、そして今も。






目指すものに向かって全力でいる私は、それを止める必要なんてなくて。





無鉄砲でも、無茶でも。








間違ってなんてないんだって、あの頃の私に言われているみたいで。








本当に進んでいいのか、後悔しないのか、なんて心のどこかで悩んでいたモヤが、一気に晴れた気がしたんだ。












白布「違う、泣かせるつもりじゃない。俺は_____、〜ッ、!」


あなた「〜、………ッ、ありがとう、ございます……、」


白布「…………、」








目元に充てていた私の手に重ねた白布さんのそれを、両手で包み込んで。










あぁ、私はなんて_________与えらてばかりなんだろうって。











勇気付けられて





待ってるって言ってもらえて





好きだって




諦めないって




救われたって




これでいいんだって




応援してるって。











私は、絶対。







帰ってきた時、こうして与えてくれた人たちに……何倍も、何百倍も。








恩返しができるような大人になっていたい。

































白布𝓈𝒾𝒹𝑒.°








泣き疲れたのか、いつの間にか眠ったあなたをひとまずベッドにしっかりと寝かせて、俺も風呂に入ることにした。






消え入りそうな声で、何度も何度も伝えられた感謝の言葉の意味は、何となく分かった。











あなた「……ん、ぅ、」


白布「…………また明日でいいか。」


















部屋の時計は、もう既に10時を回っていた。

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