第406話

覚えてなよ
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2020/07/21 14:52
体育館から出ると、烏野の皆が不安そうな顔をしてウロウロしていたので何かあったのかと心配になった。



あなた「ど、どうかしたんですか……!?」


田中「!!あなたちゃん!」


西谷「無事かぁ!?」


あなた「……へ?」




どうやら白鳥沢の皆との一部始終を見られていたようで、心配するような事は何もないと伝えると「そういう問題じゃない」と小突かれた。



あなた「!カゲくん……」


影山「……勝ったぞ」


あなた「ふふっ、うん……!知ってるっ」




教えられた芸を見事こなした仔犬のようにいかにも褒めて欲しそうなその顔を見ていたずら心が擽られ、笑って返すとムスッと眉間にシワを寄せた。




あなた「ふっ……はははっ!ごめんごめんっ」




軽く謝って、高い位置にあるその頭をヨシヨシと撫でてあげると満足そうに、そしてどこか照れ臭そうに顔を緩めた。


髪、サラサラ……。




あなた「…………おっきくなったね」


影山「……あなた?」


菅原「出た、影山に対しての意味深な母親目線っ」




茶化してきた菅原先輩に「もー!」と怒ると嗜めるように前に出した掌を私に向けて広げた。


勝ったし、ね。


細かい所は後で叱ることにして、その手にパチンと合わせる。



ニシシ、と笑い合い、菅原先輩の綺麗な白い歯が見えた所で間に入ってきたのは日向。




日向「あなたっ!俺ともハイタッチしよー!!」




両手をブンブン広げて天真爛漫に笑うので、「勿論!」と答えて両手でハイタッチ。


続けて田中先輩、澤村先輩……とほぼ全員とハイタッチが完了し、ふと手首に巻いてあるリストバンドが目に入った。



……そうだ。


戯れていた私たちを一歩下がって見ていた西谷先輩に歩み寄りながら、それを外す。




あなた「……あの」


西谷「…………サンキューな」


あなた「え?」




思ってもみなかった言葉に顔を上げると、先輩は首の後ろに手を当てて申し訳なさそうに笑った。




西谷「あんな色々あって……「応援して」なんて無茶振りちゃんと聞いてくれただろ?あなたの声……めっちゃ聞こえたっ!」


あなた「っ……、」




照れくさそうにそう言って、差し出したリストバンドをゆっくりと受け取った。


確かに私は……西谷先輩のバレーに心底惚れているんだと今日再確認した。



それが、良い事なのか悪い事なのか……よく分からない。


この胸の高鳴りがなんなのか、名前を付けたくなくてしょうがない。



それでも、私は。





あなた「……やっぱり、私______」



西谷「……?」



あなた「、」

冴子「おい皆ぁぁぁぁよく頑張ったなぁぁ!!」



遮るように駆け寄ってきた冴子さんが、真っ先に田中先輩に腹パンし。


続けて西谷先輩の方を向いたので、言うのをやめた。


言って良いのか迷った事だから、こうして遮られたと言うことは言わない方がいいのかもしれない。



そんな不確かな事を考えながら数歩後ろに下がった。



トンッ



あなた「_________、」



明光「あ……ごめん」




冴子さんと一緒にやってきた明光さんにぶつかってしまい、お互いに謝った。


明光さんは何かパッと表情を明るくさせて、小さく手招きをしてきたので輪から外れて廊下の端に移動した。




明光「今日、ウチ来なよ」


あなた「……え?」


明光「蛍の奴、きっと喜ぶ」




そう柔らかく笑うので折角の勝利日を家族で分かち合ってほしいと言おうとすると、山口くんと一緒に月島くんがトイレから戻ってきた。




あなた「!」





その姿を見た瞬間、足が勝手にそっちに動いていて。





田中「おぉ、ヒーローの登場じゃねぇかっ」


月島「やめてください」


あなた「月島くん!!ねぇ!あのね、あのねっ!」



駆け寄ってその仏頂面を見上げると、「何、ちょっと落ち着いて」と嗜められた。




月島「ほらもう皆見てるから___


あなた「う……じゃ、じゃあ、耳貸して!




懇願すると「一回だけね」月島くんらしい言い回しで屈んでくれて、スポーツグラスがかかったその耳に小声で耳打ちした。




あなた「あのね_____1番カッコよかった、//


月島「〜っ、……は!?///」





思った事をそのまま口にすると、なぜか半ギレで耳を押さえ、私から距離を取る。


その頬から耳にかけてが、夕焼けくらい真っ赤で。




なんだなんだとこっちを向く皆を気にしながら、月島くんは顔をしかめて屈み今度は私に耳打ちした。






月島「______帰ったら覚えてなよ……?


あなた「……ふぇ……、!?」





あれ、何されちゃうんだろう……。






お互いに顔を赤く染めた私たちの所に先生がやってきて、表彰式が始まるから中に入るようにと言われた。


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