第368話

ただのマネージャー…否
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2020/06/04 11:29
【試合割愛気味】



谷地「なんか……型にハマってないバレーっていうの……かな?」


隣で呟いた仁花ちゃんに同調した。


条善寺の攻撃、守備さえも、無茶な位置から遊ぶように繋げている。


ポジション関係無しに、勿論ルールに従った上で滅茶苦茶なプレー。



日向がウヨウヨいるみたい……。




だけど代わりに、囮にはよく引っかかるし大雑把でもある。



烏野は点差こそつけきれずにいるもののリードを続けていた。



19対17。


相手セッターがツーに跳んだのを、カゲくんが勢いよくブロックに入った。




ドゴゴッ

 
跳ね返ったボールは相手コートに落ちた。



仁花「すごい、影山くん!」


滝ノ上「お"い……今のブロック…………」



…………あーあ。




滝ノ上「顔面だったぞ」



カゲくんの顔はほんのり赤く、つぅっと垂れた鼻血を見て思わず頬が緩んでしまった。




山口くんに連れられて出て行くカゲくん。




あなた「まったく…………。仁花ちゃん、私行ってくる!」


谷地「しゃち!」




条善寺のプレー、テンションにつられて前のめりになってしまったんだろうなぁ……。




山口「あ、あなたちゃん」


影山「……見んなボケ」



ティッシュで花を押さえるカゲくんはふいっと顔を逸らした。


恥ずかしいのかな……?



あなた「ふふ、盛大にやったねぇ〜」


影山「うっせ」



医務室へ行って念のため診てもらい、鼻血が止まるまで休ませてもらった。




山口「じゃあ俺、先に戻ってるから」


あなた「うん、止まったらすぐ行くって言っといて〜」



手を振って見送ってから、隣に腰掛けた。



影山「お前も戻れ」


あなた「なに、反抗期??」



ふてくされた声で言うものだから尋ね返すと、首を振った。




影山「普通に……みっともねぇだろうが」


あなた「……必死に止めにいった結果じゃんか」


影山「それで下げられたら意味ねぇ」



元も子もない事言うなぁ。



あなた「ふ、でもさ。私だしいいでしょ!清水先輩とか仁花ちゃんだったら恥ずかしい気持ちも分かるけどっ」



影山「あ"?」



なぜかより一層深くなった不機嫌さは止まることを知らず、ティッシュを替えるついでに横目で睨んできた。



あなた「なに怒ってんの〜っ、復帰してバシバシ点取ればいいでしょ!」



影山「お前だから嫌なんだよ」



あなた「……え?」



背中をポンポンと軽く叩くと、空いた手で手首を掴まれた。



 
あなた「ん、なに、が?」


影山「別に、先輩とか谷地さんに見られてもマネージャーだろ」


あなた「??私もマネージャーだけど……」




ていうか、散々恥ずかしい場面見てきたのに今更……。




影山「……俺の中ではただのマネージャーじゃねぇんだよ

「そろそろ血、止まりましたか?」


あなた「、?」


医務室の先生の声と重なりカゲくんの言葉が聞き取れなかった。


血はようやく止まったようで、お礼を言ってから医務室を出た。




さっきなんて言ったのか気になるけど……。




あなた「んっ、かましておいで!!」

  

とりあえず今は試合に集中だ。

両手で背中を押すと、ゆっくり振り向いて口を開ける。





影山「________ちゃんと見とけよ」





その言葉に、「勿論!!」と頷き見送った。



あなた「ただいま〜……っ、マッチポイントだ」


谷地「お疲れさまっ」


入口からはよく見えなかったから、ギャラリーに戻って初めて点を見ることができた。


まぁ負けているとも思ってなかったけど……。



カゲくんの代わりに菅原先輩、日向の代わりに成田先輩が入っている。




あなた「成田先輩ないっさー!」



声をかけてベンチのカゲくんを見ると、退屈そう。


多分出るのは2セット目からなんだろうな。




向こうのリベロが綺麗にレシーブしたボール。


瞬間、全員同時に動き始めた。




谷地「!?」


滝ノ上「条善寺、シンクロ攻撃……!?」



トスが上がった先は照島さん。


軽快な掛け声と共に放たれる筈だったボールは、指先の数センチ上を通過して見事に空振り。




ピーーーーッ




谷地「シンクロ攻撃、できたんだ……」


あなた「……や。あの人ならシンクロ攻撃できるんなら多分最初から使ってるはず……。烏野はシンクロ攻撃したの?」


滝ノ上「お前が戻ってくる直前にな、」


あなた「……じゃあほぼ確実に、見様見真似だ」



セット終盤、追い詰められている場面でそれをすることがどんなに無謀で短絡で、そしてそれができることがどんなにこちらにとって厄介か……。






まさしく、“遊んでいる”と称すに値すると改めて思った。


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