あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°
黒尾「_____ふざけんな、」
ドサッ
あなた「っ、痛ぅ……」
突然の事過ぎて、状況が理解できなかった。
気が付いた時には私の背中は畳に重なっていて、黒尾さんの顔が目に入る。
唇を噛み締めて、心の底から怒っているような……。
あなた「く、ろ…………」
黒尾「お前が」
ギリッ
あなた「っ、」
両手首を力強く掴まれて、抵抗しようと崩した脚の間に膝を付かれた。
黒尾「西谷を……忘れるためなら」
あなた「……」
そうだ。私は……忘れるために、“利用”した。
黒尾「____相手は俺でもいいだろ」
あなた「!?~っ、……んん"っ、」
見たことのない、何も映ってないような目……。
狂暴な狼に睨まれたかのように恐怖が襲ってきた。
そして、落とされた唇が重なって。
月島くんとは違う、でも軽いキスを繰り返す。
あなた「んぅっ、ん、~っ、ちょ、黒、」
重ねる度に、少しずつ体が密着していって。
黒尾さんのがっしりとした大きな体に覆い被されて、身動きがとれない。
休む暇なく落とされる唇に息が苦しくなって、小さく口を開けると待ち構えていたかのように侵入してきた。
あなた「~っ!?ん……、!?」
熱い。
触れているところも、交わる舌も。
乱暴過ぎるほどに激しいキスに、もがく度にそれは増していく。
黒尾「はぁっ、……忘れてぇなら、俺にしろよ」
あなた「っ……、」
苦しくて、ぞくぞくして、視界がぼやけて……。
ようやく解放された両手を動かしたいのに、力が入らない。
黒尾さんは私を見下ろして、形のよい唇を舌でなぞった。
黒尾「こんなんでとろけそうな癖に……」
あなた「ふ……ぅ、はぁ……はぁ……、」
こんなの……知らない。
こんな、怖くて、苦しくて、熱いキス……。
あなた「ゃ……も、やめて、…………よ、」
再度落とされそうになった唇を前に、脱力して閉じきれない目から涙が溢れた。
黒尾「、煽ってるようにしか思えねぇよ」
あなた「ちがっ、ぅ……」
黒尾「気持ちに嘘ついて他のやつと付き合うなら、もう俺も遠慮しねぇからな」
あなた「……ぇ?」
遠慮、って……。
黒尾さんは今度は、軽く触れるだけのキスをしてから首元に顔を近付けた。
黒尾「お前こと好きなのは……月島だけじゃねぇんだよ……」
あなた「…………、」
ねぇ、黒尾さん……。
気のせいじゃないよね……?
例外なく火照った首筋に、つぅ……と冷たい液体が通って。
あぁ私は…………。
傷つけてばかりだ。
ごめんね、黒尾さん……。
ごめんなさい。
私なんかが……こんな。
あなた「さい…………めんな、さい……ごめんなさい……」
黒尾「_______っ、」
気が付いたら私も、涙で溢れていて。
バッと顔を上げた黒尾さんの目元は微かに赤くて。
私が……傷つけた。
だから私が泣いたら……ダメなんだ。
あなた「グスッ…………黒尾さ……ひくっ、ごめん、なさい……」
黒尾「~っ、!」
ハッとした顔をしてから、密着した体を少し浮かせた。
でももう、起き上がる力なんて無くて。
黒尾「_______、わりぃ……」
優しく頭の後ろに手を添えて、体を起こされた。
拍子に抱き締められて……息が整うのに、時間を要した。
黒尾「………………怖かったよな」
背中をポンポンとさすられて、訳が分からなくなってまた視界が滲んだ。
震える肩が、おさまらない。
黒尾「……やっぱり、」
黒尾さんの声も、震えていて。
黒尾「____俺にしてくれ……頼む、から」
黒尾さんの、こんなにも細く弱々しい声を聞くのは初めてだ。
あなた「……………………ごめ、なさい」
小さく動いた口からは、それでも尚そんな言葉しか出てこなかった。
そんな言葉しか、言えなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。