黒尾𝓈𝒾𝒹𝑒.°
久しぶりにちゃんとした会話をした気がする。
気まずくなってなくても、あなたは俺にスタンプで返信してきてばっかだったし。
でも多分、今日のこの連絡は俺にとって良くもなく悪くもなく……ってとこだろうな。
研磨「……クロ?」
黒尾「あ?あぁ……なんだよ」
部活帰りの電車に揺られながら物思いにふけっていると、研磨が不思議そうに顔を覗いてきた。
研磨「誰からLINE?」
黒尾「……父さんだよ」
研磨「嘘」
黒尾「嘘じゃねぇ」
研磨「だって嬉しそうな顔してた」
黒尾「してねぇよ。俺はいつでも幸せそうな顔です」
研磨「……」
黒尾「んな顔してんな……。海だよ。進路のこと」
研磨「……ほんとに?」
こいつは俺のヤンデレ彼女か。
これ以上は墓穴を掘りそうなので「そうそう」と適当に返して、イヤホンを付けた。
さて……何を言われるのやら。
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
お風呂に入って明日の学校の用意を整えて、ようやく一息ついた。
黒尾さんとの約束の時間までまだ少しあるので、勉強タイム。
と言っても学校の勉強ではなくて、セミナーでもらったアナリストの資料を読み漁るだけだけど。
進路……かぁ。
花巻くんは東京に行くって言うし……そういえば、黒尾さんはどうするんだろう。
お兄ちゃんは大学に行くのは知ってるけど、徹くんには結局聞いてないままだし菅原先輩たちの進路も知らないなぁ。
考え事をしながら目を通していると、いい具合の時間になったのでラインを送ってみた。
……そっか、たしかにLINEだと文字だから伝わりにくい、よね。
ふざけてきてるな……。
お兄ちゃんにバレないように、部屋のドアをきっちりと閉めた。
あなた「……よし」
通話ボタンを押して、黒尾さんが出るのを待った。
黒尾〈______もしもし。〉
あなた「、……あなたですっ」
いつもと少し雰囲気の違う低い声に自己紹介をしようとして、相手は黒尾さんなんだと思い直した。
電話の向こうでクスクス笑う声が聞こえる。
黒尾〈はい。鉄朗です。どうぞ?〉
小馬鹿にしたような返答にイラつきながら、下の名前の響きにむず痒くなる。
あなた「あ、「鉄朗」といえばこの間名前借りた」
黒尾〈どゆこと。〉
あなた「まぁいいや。その話じゃなくて……」
黒尾〈"ご報告"かな?〉
試すような口調に、全部バレてそうだなぁと頭をかいた。
あなた「うん。「ご報告」。……私、」
黒尾〈……うん。〉
多分、言わなくても分かってるんだろうけど。
気付かせてくれたのも、ここまでこれたのも、黒尾さんのおかげだから。
あなた「______月島くんと別れました。」
意を決して話した台詞。
黒尾さんは電話の向こうで少しの間黙っていて、私も黙り込んだ。
黒尾〈そうか。頑張ったな。〉
あなた「っ、、、!」
思ってもみなかった言葉に、喉が詰まった。
なんで黒尾さんは……こんな。
あなた「ちがっ……私、」
黒尾〈……?〉
あなた「私……何もっ、月島くんに、また……傷つけるような事、させたの……っ」
黒尾〈……そうか。ツッキーも頑張ったんだな。〉
違うんだよ、黒尾さん……。
私は何も、頑張ってなんかない……。
全部、全部押し付けて……最低なんだよ。
電話なのに、黒尾さんの優しさと月島くんへの後悔に襲われて涙が溢れた。
気付かれないようにと堪える程、嗚咽が漏れてしまって。
黒尾さんは、全部お見通しかのように落ち着いた声で私を嗜めた。
黒尾〈報告してくれてありがとな。なんも言ってくれねぇかと思った。〉
あなた「〜っ、迷った、けど……」
黒尾〈おい。迷うなよ。〉
あなた「だって、だって……黒尾さんに、別れたって……そんなの、ただの都合いい奴みたいで……嫌で、」
黒尾〈………………"都合のいい奴"……ね。〉
少しの沈黙の後、〈俺……。〉と小さく呟いた。
黒尾〈お前が今でも俺の事好きになれないっつっても、諦めるとかねぇと思ってる。〉
あなた「……、」
黒尾〈お前が俺に言おうか迷ったのは、俺に"期待されると困るから"だろ?するわ。期待くらい。〉
あなた「……っ」
やっぱり……私、。
黒尾〈だからって?今更応えてもらえなくて傷ついたりしねぇししつこく言い寄っていくつもりデス。〉
あなた「え……?」
黒尾〈むしろ"都合いい奴"ってポジションでも良いって思ってる。……けど、なんならちゃんと彼氏になりてぇ。〉
……黒尾さんて、言葉が真っ直ぐで……。
電話って逃げられないし、声が直で耳に入ってくるからより胸に響いてくる。
黒尾〈春高で会う時が楽しみだな、くらいに思っててくれたらいーよ。気軽に俺に狙われて?〉
あなた「……なんで、」
黒尾〈んー?〉
なんで私なんかに……こんな、優しさを与えてくれるの?
どうして……私なんかを好きでいてくれるんだろうか。
黒尾〈理由言えって言われても困るからな。〉
ほんとに、なんでもお見通しみたいに笑って言った。
やっぱり敵わないなぁ、なんて思っちゃったり。
黒尾〈俺だってこんな鈍感女のどこがいいのか全く分かんねぇし。〉
あなた「……鈍感?」
黒尾〈ほらもー、出た出たっ。あぁやだねぇ。〉
あなた「ちょ、どう言う意味っ」
黒尾〈ハハ。意味分からんくらい好きだって事じゃね?〉
あなた「……//」
黒尾〈照れてる?なぁ、照れてんだろっ。〉
あなた「うっさ!!切るよもう!」
黒尾〈怒んなって短気ぃ〜っ。______って、待って待ってマジで切るな!〉
通話終了ボタンに伸ばした指を止めて、言い訳を聞くことに。
黒尾〈今から勉強すんだけど……今日だけ繋げとかねぇ?〉
あなた「……え?」
黒尾〈適当に話しながらやりてぇ。そのくらいサービスしろよ。〉
「サービス」って……もう。
ただ、黒尾さんへの感謝は変わらないし私も丁度勉強するところだったし。
私たちは他愛無い話をしつつ勉強を続け、いつの間にか眠ってしまっていた。
✂︎________________________
やっとこさ TO THE TOP に入っていきます!!
……の、つもりだったんですが。
ちょっと今身の回りがゴタゴタしていて(今は主に生徒会です。)、1週間ほどもしかしたら更新お休みするかもしれません💧
連日帰宅時間が21時を回りそうなので、書けるとしたら次の土日くらいかな……?と思っています!
新しい作品ジャンジャン初めて追い付かなくてアホみたいなんですけど待っていていただけたら嬉しいです!
それと、TO THE TOP に入る前にまた番外編を書こうと考えています!
前募集した時にリクエスト頂いた物から、作者の趣味(恥)や、勿論これからリクエスト頂いた物まで書いていきたいと思っているので☺️
もしよかったらコメントにてリクエスト頂けると嬉しいです❤︎←ピンときたのから書き始めるので順不同です。
前リクエストくれた方でも勿論してくださってOKです!
(それではまた来週……あたりに。)
双葉🌱🖇.
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。