教室に入ってすぐに自分の席を確認した。
よし、ちゃんとある。
明らかな嫌な視線を向けられながら席まで移動し、鞄とリュックを机の両側にかけて、リュックから1時限目の教科を探しあてる。
あ、そっか。
1時限目の現代文はおさらいだからノートだけで良いと言われたんだった。
山口「ね、ねぇあなたちゃ__________、」
あなた「さくらー。……ん、山口くんどうかした?」
向くと複雑そうに笑って
山口「い、いや……あとでいいよ」
と席に座った。
さくら「なーにー?」
あなた「昨日貸したノート、1時限に使うから返して~」
おさらいではノートに書いてあることを順に当てられて答えていくので、きちんとノートをとれているかが重要になってくる。
さくらはポカンとして、目をぱちぱちと動かした。
さくら「あなたが来る前に机の上に置いたよ?」
あぁ、ね。
・
武田「それでは次を……岩泉さんどうぞ」
終盤になって当てられた。
私には今、勿論教科書も、そしてノートすらも手元にない。
この状況で答えれるのかどうか……。
いくら待っても答えない私の手元を見てか、
武田「隣の人にノートを見せてもらってください」
と微笑んだ。
……後で怒られるのかな……。
周りの人、か。
勿論普段なら月島くんに見せてもらっているところだけど……まぁそうもいかない。
かと言って後ろの人も……。
私が当てられた瞬間鼻で笑うということは主犯ではあるのだろう。
その他の人たちも、私と目を合わせたくないのか顔を伏せている。
月島「なにボーッとしてんの」
珍しく月島くんが自分からノートを見せてくれようとしたけど、その感動は置いておいて今は聞こえなかったことにした。
あなた「先生、問題文はなんでしたっけ」
尋ねると、首を傾げて読み上げる。
武田「えぇと、"山椒魚の蛙に対しての感情が最後に変わったと分かる言葉を文中から___って、これはノートか教科書がないと……。」
あなた「『彼は上の方を見上げ、且つ友情を瞳にこめて尋ねた。』」
答えると、先生は勿論教室中が驚いた。
文中から抜き出すという問題は、文章そのものがないと答えようがない。
武田「岩泉さん、文章を覚えているんですか?」
あなた「……はい。だからノート見逃してくれませんっ?」
どわっと笑いが起こる。
まだクラスに味方はいるようだった。
武田「それとこれとは別問題ですねぇ」
「ですが、正解です。」と微笑んだ武田先生は、引き続き板書を始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。