第606話

ギラギラの瞳
18,306
2021/10/13 12:20
谷地𝓈𝒾𝒹𝑒.°




対稲荷崎戦に備え、サブアリーナでアップを取っている皆。


私とあなたちゃんは2人、会場に戻って前の試合の動向を視察していた。




谷地「もう2セット目……あっという間だ、」


あなた「そうだね。中盤辺りで声かけに行こっか。」


谷地「うんっ。」




2人並んで扉から中を覗いていたのを私がやめると、あなたちゃんはまだコートをじっと見つめていた。



もしかして……この試合も分析してるのかな……?




邪魔せまいと少しだけ距離を置いて、見守ることにした。






?「_____________あ。」


谷地「??」





と、向こう側の扉から出てきた男性がこちらに目を向ける。


視線は一直線に、未だギラギラした目で前のめりにコートを見据えるあなたちゃんに。



少しして、あまりの集中に気が付かないと悟ったのか苦笑してこちらを見やった。





?「こんにちは。」


谷地「っわ、こ、こんにちは!」





スタッフのネームカードを垂らしてあるし、大会関係者の方なんだろうな……。


あなたちゃん、知り合いなのかな……?





?「宮城の……烏野高校のマネージャーさんかな?」


谷地「っあ、はい!」


?「そうか……1年生?」


谷地「はい……、」





私とあなたちゃんを交互に見てから、「そうか……。」と呟いた。




?「彼女……部活ではどんな感じなのかな。」


谷地「……え?」






あなたちゃんの事______だよね?


なんでこの人、あなたちゃんを知ってるんだろう。



まさか……誘拐!?





?「あ、ごめんごめん。自己紹介が遅れたね。」




私の心を読み取ったのか、男性は胸元から名刺を取り出して渡してきた。




谷地「"全日本"……。っえ、あ、すみません!!」





偉い人だった……。





佐渡「ごめんね。彼女とはこの間のセミナーで知り合ってね。少し交流があるんだ。」


谷地「そうだったんですね……。」




頭を上げるように促されてから、改めて真剣な目でコートを見つめているあなたちゃんを見た。


部活でのあなたちゃん……。




谷地「とにかく、私の憧れです……。試合を見る目もそうだし、何より選手のことを1番に考えて、出来る最大限をする人だって、思います。」


佐渡「マネージャーの鏡だね。」


谷地「それから、たまに無茶して怒られて……バレーのことになると一直線で、そこさえ輝いてて……。」




あなたちゃんは選手ではないけれど、私とは別の"意味"で、一緒に戦ってるんだって、そう思う。




谷地「だから、そんなあなたちゃんだから……私は勿論、皆から愛されてるんだって思います。」


佐渡「……彼女は、いい仲間を持っているんだね。」




何故か、そう言って申し訳なさそうに目を伏せた。





谷地「……?」


佐渡「あ、いや。ただね、私が職業柄あまり身内にも良いように思われて無いものだから。」


谷地「……そう、なんですか、」


あなた「仁花ちゃん、そろそろ声かけに行こっk_____〜っ、佐渡さん?」





何だかこっちが申し訳なくなってきたところで、あなたちゃんがようやくこちらに気が付いた。

 



佐渡「やあ。次の試合、頑張ってね。」


あなた「ありがとうございます……!」





スタスタと戻っていって、私もあなたちゃんと2人で踵を返してサブアリーナに向かった。





あなた「何話してたの?佐渡さんと。」


谷地「んーと、あなたちゃんが部活でどんな感じか、みたいな。」


あなた「親か。」





ふっと頰を緩ませてから、それを引き締めるようにバシッと叩く。







あなた「……ぅし______勝とうね。」


谷地「……!」





多分……私とは、違う。


熱の入り方とか、真剣さとか……私にももちろん、あるけど。




ギラギラの、日向達みたいな目の奥に。




何か、ズシっとした思いが……ある気がした。









あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°




谷地「第1試合、2セット目中盤です!」





サブアリーナに戻って皆に伝え、ユニフォームに着替える。


スクイズの中身が練習で既に少なくなっていたので、その時間に詰め替えておく事にした。




澤村「ああすまん。頼む。」


あなた「お安い御用です!よ……っと。」





カランッ




あなた「!」







スクイズを抱えたと同時に、バランスが崩れて何個か落としてしまった。



話していた澤村先輩が拾ってくれようと転がっていった方に顔を向け、「え、」と声を漏らす。






あなた「?何か______、」





足元に空いてしまった分を拾い上げて、私もそちらを向いた。







立っていたのは、意地悪そうに口角を上げてこちらを見下ろしている、稲荷崎のセッター。



私が落としてしまったスクイズを拾い上げて、歩み寄り。






スッと差し出した。















侑「おたくのマネージャー、ちょっと借りてええですか?」

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