綾乃「ねっ、ね、どういうこと!?」
HR後、すぐに綾乃、真綾、さくら……だけでなく、クラスの大半の女の子に囲まれた。
あなた「え……と」
困ったなぁ……。
一言「付き合ってる」って言うだけじゃ満足してもらえないだろうし……。
「いつからなの!?」
……ほら、まだ付き合ってるって言ってないのに。
部活行かなきゃ……。
あなた「……綾乃も真綾もさくらも。今度。今度ちゃんと話すからっ」
他の子に話す義理もないし、そもそも誰かと付き合って誰かに報告するなんてちょっとよく分かんないもん……。
……黒尾さんは例外として、ね。
クイッ
それでも引き下がってくれそうにないので困っていると、後ろ襟を軽く引っ張られた。
振り向くと、この騒動の元凶。
「っ、やっぱり月島くんと____」
月島「部活行くよ」
あなた「、うん……!」
すかさず輪から抜け出して、教室から脱出した。
あなた「はぁ……ありがとう」
月島「付き合ってること、言ったらまずい訳?」
廊下を歩きながら肩を落とした私に、顔色をうかがうような言葉遣いで尋ねてきた。
……多少やり過ぎたって思ってるのかな?
あなた「まずいって訳じゃないんだけど……さ」
月島「……前みたいに、トラブルを起こすんじゃないかって?」
あなた「……」
勿論、それもある。
けど前回は……さくら達にも迷惑をかけた。
辛い思いをさせた。
自分のことなら何とかできるけど、周りの人を傷つけられるなんて思ってもなかったから……。
月島「…………ちょっと来て」
あなた「っ!?」
階段の1段目に伸ばした私の足は付くことなく、脇の進路資料室に引っ張られた。
あなた「月島く……ん?」
カーテンが閉まりきっている資料室は薄暗く、不安が募っていく。
なにか気に障ることをしただろうか……。
フワッ
あなた「、~っ……!」
そしてすぐに、その不安を拭い取るかのように後ろから包まれて。
月島「……今度こそ、守るから」
あなた「………………ぇ」
“守る”
月島「何も知らずに、知らされずに傷つかれるのは嫌だから。……ちゃんと言って。…………それ以前に、もうあんな思いさせない」
あなた「……、」
月島「_____キミの、彼氏だから」
月島くんがなんで、あの時の事を知っているのか。
いやそんなのはどうでもいい。
頭がちゃんの働かない。
喉の下辺りがきゅぅぅってなって……苦しくて。
涙が出そうになる。
なに……これ。
私って……案外チョロいのかな?
これがいわゆるあのドキドキなら……。
私は多分もう、ちょっとずつ……。
月島くんを、好きになっていってる。
あなた「//……ね、そっち向いてい?」
背中を向けていると顔か見えないので、返事を聞く前に振り返った。
月島「ちょ……」
あなた「……ふふっ、照れるの私だけじゃなかった~っ//」
月島くんの大きな体に包まれながら顔を見上げて、その赤さは薄暗い中でもよく分かった。
月島「あのねぇ……僕結構真剣に___」
ギュウゥ……
月島「!!」
思いっきり沼本に顔を埋めて、腰に手を回した。
落ち着かない……心臓がバクバクいってる。
それでも、この苦しさは嫌いじゃない。
あなた「えへ……月島くん~っ」
月島「!?///、グリグリすんなっ」
照れ隠しに押し付けた頭を離されて、ついでにでこピンされた。
あなた「痛ぅ~っ、……部活、行こ!!」
額を押さえながら笑って言うと、月島くんは小さくため息をついて床に落とした鞄を持ち上げた。
月島「部活の人には、内緒?」
あなた「んー…………自分達から言うようなことでもないしねっ」
月島「……僕的にはすぐに言いたいんだけど」
あなた「え?何か言った?」
月島「…………週末どっか行く?」
あなた「!……行く!」
つい最近まで憂鬱だった部活前。
この時間が、こんなに尊いものになるなんて思ってもなかった。
月島くんの、おかげだ。
ちゃんと……好きになりたいなぁ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。