6月今年もやってきた 。
私が一年の中で最も嫌いな季節 。
じめついた廊下にまとまらない髪 。
今も空は音を立てて水を落としている 。
「 雪村って 、
確か部活入ってないよな ?
悪いけどこれ 、バレー部の須藤先生に
渡してきてくれないか 。」
帰ろうとしていたその時 、
担任に呼び止められる 。
聞けば 、先生は今から大切な会議なんだとか 。
それでこれは至急の書類なんだ 、とか 。
ついてない 、今日は湿気で髪はボサボサだし 、
蒸し暑い 。
職員室に行けば 、先生は体育館だとか 。
あなた 「 ... めんどくさい 。」
今日は早く帰りたかったのに 。
体育館に向かうには
屋根付きの渡り廊下を
渡らないとならないのに 。
今日は雨だから 、
多分横からの雨で濡れてしまう 。
「 あなた 。」
あなた 「 ... っ 、」
渡り廊下へ足を踏み出そうとした時 、
ふと呼ばれた名前 。大好きだった声 。
いつぶりかに聞いた
大好きな声に乗った私の名前 。
「 、、、 その 、久しぶり 。
元気だったか 、あのっ 、」
声に反応して振り向けば 、あたり 。
以前より少し伸びた背に 、
変わらない少しの癖毛 。
「 本当に 、悪かった 。
ずっと謝ろうと思ってたんだ 。
あの日からお前俺のことずっと避けてただろ ?
って 、そりゃそうだよな 。」
視線が交わって 、
焦点が合うと気まずそうに俯いた 。
「 本当に 、悪かった 。傷つけた 。」
彼が私の前で頭を下げる 。
あなた 「 … うん 。」
いやだ 、お願いだから頭を下げないで 。
その頭を上げて 、
もっと私が傷つく言葉を放ってほしい 。
私に謝らないで 。反省なんかしなくていい 。
あんな奴遊びだよって 、笑って欲しいい 。
私のことなんてほっといて 。
「 … 唇 、噛まないでよ 。
拳もそんなに強く握らないで 。
ってそうさせてんの俺だよな 。
言いたいこと我慢してる時のあなたの癖 。」
きゅうと噛んだ唇に 、
痛いくらいに握っている拳も気づかないで 。
あなた 「 … ごめん 。」
「 なぁ 、俺お前のこと本気で好きだったよ 。」
やめて 、そんなふうに言われたら 。
あの日 、高橋くんがせっかくしてくれた蓋が
コトコトと音を立ててこじ開けられる 。
彼の唇によって塞がれた気持ちが 、
溢れていく 。
蓋してた気持ちが溢れてくる 。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!