第9話

Before story 2
284
2019/08/06 12:19
そして、由希と約束した夏祭りの日。


「これで、よし…!お母さん、帯、大丈夫だよね、これで。」
「大丈夫よ〜。お友達と楽しんできてらっしゃい。」
「うん。」


とりあえず、花火を見終わったら、出来るだけすぐに帰る、と約束して家を出た。
由希の浴衣姿、楽しみだな、などと思いながら待ち合わせ場所の駅まで急ぎ足で向かう。


駅に着くと、まだ由希は来ていなかった。
時計を見ると、まだ集合時間までは時間があるから、遅れてくるわけじゃないんだろう。

近くにあったベンチに座る。


「あっれ〜、岩渕さんじゃん。誰待ってるの?」


その声にビクッ、と小さく肩が震えた。
声の主は、由希をいじめている、主犯格の人物だったから。

別に、私は直接嫌われてるわけではなさそうだけれど、この人は私にとって許しがたい人物であるから、
向こうにとっての私は、あまり好きになれないと思う。


「友達を待ってるの。そっちは?」
「私もよ。ねぇ、岩渕さん。橘のこと、そろそろ潰そうと思うから、今のうちに離れといたら?」
「…!」


何、それ。
心の中で、何かが黒くにごった。
…由希を、潰す?そんなの…そんなこと…。


「悪いけど、そんなこと、させないよ。」


自分でも驚くほど、低い声が出た。
きっと、顔もすごく怖くなってたと思う。

それでも、目の前のこの人は、黒い笑みを崩さずただ私を嘲笑うかのごとく見ていた。


「まぁ、ね、私達の邪魔をするなら、容赦しないよ。誰であってもね。
だから…どうするのが懸命か、分かるでしょ?」


それだけ言うと、身を翻してどこかへ去っていった。

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