第5話

Episode 5
350
2019/07/16 09:51
「…ねぇ、夕日って…何色だと思う?」
「えっ…?」


いきなり何だろう、と思ったが、窓から外をのぞけば、夕日が私達を照らしているようだった。
大野先輩は、答えを待つようにジッと私を見ている。


「え、っと…ごめんなさい、言葉では…。」


改めて見ると思う。
オレンジ、とか、赤、とか、そんな簡単な言葉では表せない。
もう少し美術的センスがあれば、違ったかな。


大野先輩、呆れてるかも…と思って彼の方を見ると、意外にも大野先輩は穏やかな表情をしていた。


「俺も、そう思うよ。」


静かな声は、どこか物悲しそうだった。
気のせい、なのかもしれないけれど。


「単色じゃなくて…言い表せない深さがある。それを見て感じるのが、好きなんだ。」


そう言った大野先輩は、夕日に照らされていても分かる、嬉しそうな、楽しそうな表情をしていた。


その表情に、ドキッ、と胸が高鳴る。


「…入るつもり、ある?美術部。」
「大野先輩、美術部なんですか?」
「それ以外にないでしょ。ここ、美術室だよ?」


フッ、と大野先輩は微笑む。

(…あ…)


何でかは知らない。
大野先輩から、目が離せなかった。


「まぁ…急がなくても良いか。別に俺は、部員が欲しいわけでもないんだし。」
「入ります。絵を描くの、苦手ですけど。」


ただ、大野先輩と、同じ時間を過ごしていたかった。
夕日に照らされた、あの綺麗な微笑みを、もっともっと、見ていたかった。

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