「すっ、すいません。」
大野先輩が私へと向ける目が何だか怖くて、私は慌てて身を退かせた。
大野先輩は私のことなど気にせず、そのままスタスタと行ってしまった。
…大野先輩って、なんと言うか…無愛想な人なのかな、と思いながら、私は自分の教室へと向かった。
―そして。
「あなた、部活見学、行ってみよ!」
「あっ、うん。」
放課後、私は友達の由佳と部活見学に行くことにした。
メジャーな部活から、あまり部員数のいない部活まで。
「あなた、どうするー?行きたい部活、あった?」
「どうしようかなぁ…。由佳は?」
由佳が入るなら、私もどっか入ろうかな、とそんなことを思った。
「んー、付き合ってもらっといて悪いけど、やっぱ野球部のマネージャーやろうかな。
アイツにも誘われてるから。」
「そっか。佐々木くんも喜ぶんじゃない?」
佐々木くんというのは、由佳の幼馴染でもあり、恋人でもある男の子。
由佳は佐々木くんからマネージャになってくれと言われているらしい。
「それはどうかな。で、あなたは?どうするの?」
「私は…。」
部活、入らなくても良いかな、そう、言おうとした。
でも、ふと顔を上げたとき、偶然校舎にいる大野先輩が見えて、私はほぼ無意識に動いていた。
「ごめん、先帰ってて!」
「えっ!?あなた!?」
驚く由佳の声を背に、私は走り、校舎の中へと入って、さらに廊下を走る。
中学の頃、陸上部で鍛え上げた足腰が、どうやらここに来て役に立っているらしい。
「…ドタバタうるさいんだけど、そこの1年生。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。