あれからわかったことは、先輩は学校の人気者で、
私なんかが簡単に近づける相手じゃなかったってこと。
何もできないまま月日だけが流れて春から夏へと季節は移り替わっていた。
そして、その時は突然やってきたのである。あれは夏の暑~い日だった。
ちよこ 「あっぢぃ」
大介 「なんて格好してんだよ!」
ちよこ 「ちょっとー見ないでよ~」
大介 「んなもん見たかねーよ!そっちが見せてんだろ」
ちよこ 「ねーレディにもっと優しく出来ないの?」
大介 「レディ?そんなんここにいるのか?」
ちよこ 「もう信じらんない!」
ゆり子 「あら大介来てたの?ちゃんと宿題したんでしょうね?」
大介 「心配しなくてもやってるよ!」
ゆり子「そう!じゃあまたちよちゃんに意地悪してるのね?」
大介 「してねーよ!」
ちよこ 「してるでしょー?嘘言わないでよ!」
ゆり子 「ごめんね。ちよちゃん。うちの大介ほんと子供で。」
ちよこ 「ほんとだよ~。帰ったらお仕置きしといてね!」
ゆり子 「了解!」
ちよこ 「ゆりちゃん休憩?」
ゆり子 「うん。」
ちよこ 「お疲れ様!じゃ代わるね!」
ゆりちゃんは大介のお母さんで小さい頃からうちで働いてくれてる。
海外に住んでてなかなか帰ってこれない私の両親の代わりのような存在だ。
だから、大介も我が家のごとくフラッとうちに来ては私に意地悪をしかけてくる。
兄弟のいない私にとって2人は家族のような存在なのだ。
ちよこ 「ばぁちゃま代わるよ!奥で休んでて。」
まち 「おや。ありがとうねぇ。」
夏休みに入って、団子屋の店番と宿題に追われてた私は先輩のことも忘れるくらいだった。
周りはみんな海やら祭りやらに出かけてるんだろうなー。庵先輩は何してるんだろう…。
ちよこ 「まさかこんなとこに来るわけ…」
私は夢を見てるんだ。だってそこには先輩がいるんだもん!
「…ないない」
庵 「こんにちわちよこちゃん!」
私は先輩を見つめたまま無意識にほっぺたをつねっていた。
ちよこ 「痛い。先輩本物?!」
庵 「本物?」
夢じゃない!現実だ!!
ちよこ 「先輩!あっいでっ」
慌てた私は机に思いっきりひざをぶつけてしまった。
庵 「大丈夫?」
またやってしまった…。
ちよこ 「大丈夫です。すみません。」
まさか本当に来てくれるとは思わなかった。
まち 「おやどうしたんだいちよこ大きな音して」
ちよこ 「あっごめんなさい。慌てちゃって。」
大介 「あっ…」
ゆり子 「まぁイケメンなお客さん!」
まち 「ちよこ!ちゃんと接客しないとダメでしょう」
庵 「はじめましてちよこちゃんと同じ中学の高橋庵です。」
ゆり子 「えっ?てことは何?ちよちゃんに会いにえっ?どうゆう関係?」
大介 「母さん!ただの先輩だよ。」
まち 「まあ。ようこそいらっしゃいまして。ちよこお茶をご用意して。」
ちよこ 「あっはい。」
庵 「そんなお構いなく。ちよこちゃんにお家が団子屋さん
だって聞いたのでいつか来たいと思ってたんです。」
ゆり子 「まぁそれで来てくれたの?」
まち 「ちよこがお世話になってるようで」
相変わらず先輩の笑顔は優しく包み込んでくれるようだ。
大介 「おいちよここぼれるぞ!」
先輩に見とれてるから
ちよこ 「あっありがとう大介。」
まち 「ちよこったら…どうしたの。しっかりなさい!」
本当に私はどうしてしまったんだろう。先輩の前だとおっちょこちょいが加速する。
ちよこ 「ごめんなさい先輩…お茶です。お団子もどうぞ。」
庵 「ありがとう。」
なんて綺麗に和菓子を召し上がるんだろう。そこにいた女性陣みんなが先輩にみとれていた。
庵 「…っ何か?」
「あっやっねーあははははは」
まち 「お気になさらずどうぞ召し上がって。」
大介 「……。」
大介は一人、浮かぬ顔をしてみていた。
「ありがとうございましたー!」
ゆり子 「また来てねー!」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。