第12話

茉莉花 回 -女 の 友 情 編 -
56
2018/02/06 05:55


無事、お団子パンケーキはなかむら屋の新たな看板商品“和風パンケーキ”となり好評を得ていた。


そして、庵先輩に前とは違う意味で会いづらくなっていたちよこなのである。


ちよこ 「あ゛ー。庵先輩と永澤先輩…最初に避けたの私だし…。」

大介 「お前…この前までの気持ちどこ行ったんだよ?」

ちよこ 「庵先輩の笑顔の奥に何があるのかなー?」

忘れさせるつもりが、なんか違う方向に行ってる…。

ちよこ 「大介!私決めた先輩たちの本心を探り出す!!」

昔からそうだ。ちよこは自分だけじゃなく周りをも幸せにしようとする。
他人のことも自分のことのようにして躍起になる。

大介 「あれは相当根深いぞ。高橋先輩が言ってたこと。」

ちよこ 「へっ?大介聞いてたの?」

大介 「お互いの愛し方が異常だと思わないか?」

ちよこ 「そう?私の入る余地がないくらいラブラブなんだなって思うけど。」

大介 「周りにはわからない何かが2人の中にはあんだよ。」

大介の顔を不思議そうに覗き込むちよこ。

大介 「なんだよ…!」

ちよこ 「大介…なんでそこまでわかるの?」

大介 「それは…男同士わかるもんがあんだよ!」

ちよこ 「えっ庵先輩と話したの?」

大介 「やっ話したっつーか…」

ちよこ 「あっ!永澤先輩と話せばいいんだ!!」

大介 「あっ?お前正気か?散々なことされた相手だぞ?」

ちよこ 「男同士話し合えばわかるんだったら女同士だってわかりあえるでしょ!!」

大介 「スーパーポジティブか!!怖かったーって泣いてたのはどこのどいつだよ?!」

ちよこ 「あの時はほんとに怖かったから…。」

呆れたようにちよこを見守る大介なのであった。


最近は高校受験に向けて庵は勉強に集中するようになった。
でも変わらず私とは一緒にいてくれるからこれはこれでいい。
あの団子娘とも話してないみたいで、あの子もおとなしく忠告を聞いてるみたい…

と思ったのも束の間、庵と茉莉花の目の前に得意げに越に手を当て仁王立ちしたちよこが現れた。


庵 「ちよこちゃん…ごめんね。僕はこれから塾なんだ。」


茉莉花 「あなたね、まだ懲りてなかったの?」


そう茉莉花が言うとちよこは得意げにニッと笑って言った。


ちよこ 「永澤先輩みーつけた!」


茉莉花 「えっ?何?私??」


ずんずんと近づくちよこに後ずさり思わず逃げる茉莉花。


ちよこ 「えっ!なんで逃げるの?」


茉莉花 「なんで追いかけてくるのよー!」


庵 「えっ…。」


ちよこ 「待ってくださいよー!」


茉莉花 「文化祭のことなら謝らないわよ?」


ちよこ 「えー?なんのことですかー?」


ひとしきり追いかけっこして疲れ切った2人はその場に倒れ込んだ。


茉莉花 「あなた一体何なの?」


ちよこ 「先輩こそどうして逃げるんですか?」


茉莉花 「売上優勝のことなら謝らないんだからね!」


ちよこ 「あー先輩があんな啖呵切っておいて簡単に負けちゃった文化祭の時のことですか?」


茉莉花 「っあなたね、傷口に塩を塗るようなことをよくも簡単に言うわね…。」


ちよこ 「冗談ですよ!そんなこと思ってませんよ!むしろ先輩には感謝してるんですよ?」


茉莉花 「はーあ?」


ちよこ 「先輩が意地悪してくれたお陰で仲間も出来たし、店の名物も出来たし!!」


今まで張っていた気が抜けたように笑った永澤先輩。


茉莉花 「庵の言ってたことがわかったわ。ほんとあなたっておもしろい子ね。」


ちよこ 「永澤先輩は本当に庵先輩のことが好きなんですね!」


茉莉花 「当たり前よ。庵はただ一人私に本当の愛を教えてくれたんだから。」


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幼い頃に母を亡くした私は、これからは父を独占できるものだと思ってた。
でも父は、その悲しみを仕事に費やして来る日も来る日も仕事に明け暮れていた。


茉莉花 「パパおかえりなさい!茉莉花ね遊園地に行きたいの!!」


茉莉花父 「茉莉花。悪いけど父さん今度は海外に出張なんだ。遊園地はパパのお友達と行ってくるんだ!」


パパは私になんでも与えてくれた。
でもそれは本当に私の望むものではなかった。


そんな時に出会ったのが庵だった。


茉莉花 「みんな茉莉花のことなんて嫌いでしょ?」


庵 「そんなことないよ!少なくとも僕はまりちゃんが大好きだよ!」


庵は私が何を言っても何をしてもずっとそばにいてくれた。
いつしか私は庵を心の底から愛するようになっていた。


茉莉花 「庵だけだよ。庵だけが信じられる。」


でも庵は私とは違ってたくさんの人に愛される人だった。
それが嫌だった。私だけの庵でいてほしかった。

庵を取られるのが怖かった。


茉莉花 「パパ。私、庵と結婚したいの。」


茉莉花父 「庵と?」


茉莉花 「庵じゃなきゃやだ!!」


庵もおんなじ気持ちだと思ってた。
前みたいに笑って私の傍にいてくれる。
でも私にはわかってた…前の庵じゃない。


私が庵の笑顔を奪ってしまった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


茉莉花 「…ちょ何泣いてんの?」


ちよこ 「永澤先輩辛かったんですね…。」


茉莉花 「あなたに何がわかるの?」


ちよこ 「私も両親は海外にいます。ほとんど会えてません。」


茉莉花 「へっ?」


ちよこ 「でも、毎日楽しいです。おいしいお団子を食べてばぁちゃまがいてくれる。
      それだけじゃなくてゆりちゃんだって大介だって!…意地悪ばかりするけどみんな私の大切な家族です!」


茉莉花 「ほんと変な子。」


ちよこ 「永澤先輩!庵先輩の本当の笑顔を取り戻しましょう!!」


茉莉花 「どうやって…。」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


茉莉花 「なんで私があなたの家に連れて来られてるわけ?」


ちよこ 「先輩!腹が減ってはなんとやらですよ!うちのお団子でも食べてから考えましょ!!」


茉莉花 「はいー?私はダイエット中なの!!」


ちよこ 「ダイエット?そんなほっそい体して何言ってるんですか?!」


ゆり子 「いらっしゃいませ~。あらちよちゃんおかえり!」


ちよこ 「ただいまゆりちゃん。ほら永澤先輩も早く!!」


ゆり子 「永澤って…えっ?噂の??」


ちよこ 「はい!ゆりちゃん永澤先輩にパンケーキをお願いします!」


ゆり子 「はいよ~!」



茉莉花 「おいしい!!」


ちよこ 「でしょ?」


茉莉花 「ちゅ中の上くらいの出来ね。」


まち 「それは褒め言葉なのかい?」


ゆり子 「永澤さんにとっては最上級の褒め言葉よね!」


まち 「変わった子ねぇ。」


茉莉花 「それはお宅のちよこさんでしょう?」


他愛もない話で店中が笑い声に包まれていく。


えっ?何なのこの人たち。何でこんなバカみたいに笑ってるの?


大介 「ほんとくだらないっすよね。でもこれがうちですから。何気ないことで笑ってる。」


最初は戸惑っていた茉莉花もいつしかその輪に入って笑っていた。


茉莉花 「今日はありがとう…たっ楽しかったわ。」


少し前には言えなかったであろうことを照れながらも言わせる程、茉莉花にとって大きな出来事になったことだろう。


ちよこ 「先輩また来てくださいね!」


感じたこともない暖かさを感じていた茉莉花なのであった。


茉莉花 「…あれ?肝心の庵のことはどうなった訳?!」

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