午後6時。夏ならまだ明るい時間に部活を終えたあなたが帰ってくる。
ガチャ
バタバタバタバタバタ
あなたは帰ってきたら、すぐに俺と散歩に行く。
あなたとの散歩は大好きだ。
なぜならあなたと二人きりでいられるから。
散歩の最中、あなたは俺に話しかけながら楽しそうに歩く。
学校のこと、授業の感じ、クラスメイトがあーだこーだ
誰とかが誰とかと付き合っている。誰とかが誰とかのことが好きだ。
あなたは、恋愛の話が好きだ。
勿論他のことも話す。
部活がこうだーとか、顧問の先生が何々で、どこどこの高校は全国大会にも出ていてすごい。あそこの高校の先輩はこうこうなのに、どうして自分の学校の先輩はこんなんなのか、
俺は言葉は話せないから、相づちや、鳴き声で、一生懸命聞く。
本当はもっと君と話して、笑い合ったりしたいのに。
中でもあなたの話でよく出てくるのが、隣の家のあいつ、るぅとだ。
あなたがるぅとのことを話すときは、他のどの話よりも楽しそうに話す。
きっとあなたはるぅとのことが好きなんだろう。
なんだろうな...この悔しいような、悲しいような、でも応援したくなる気持ちは。
いつもの散歩道。
シロツメクサやたんぽぽ、クローバーなどがたくさんのある公園で、一休みする。
あなたが小学生だった頃は何時間もここで遊んだり、あなたが花の冠を作ってくれたりした。
そんな思い出に浸っていると、突然
グサッ
あなたは、包丁を背中に刺されて、服に血がにじんでいた。
俺はその瞬間、頭が真っ白になった。
嘘だ、そんなこと、あるはずがない。きっと俺は幻覚を見ているだけなんだ。
しかし、現実はそう甘くはなく、倒れているあなたからはどんどんと血が出てくる。
俺はあなたのすがり付くことしかできず、必死に吠えているだけだった。
でも、俺がこんなことをしたところで、何も変わらない。
俺は自分の無力さを改めて実感した。
俺は犬だ。
何もできない。
あなたにとってもただのペットにすぎない。
そして俺もとうとう、その場で気絶してしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。