見た感じ、普通よりは結構大きいけど、普通の家っぽい。
私はフードを深くかぶり直して、息をいっぱいに吸って叫んだ。
中から茶髪の女の人が飛び出してきた。二十代前半くらいの、若くて派手じゃないけど綺麗な人だった。
女の人は何か納得したように、ぱたぱた寮の中に入って行った。
しばらくして、女の人ともう1人、金髪の男の人が出てきた。
左京さんは、もちろん舞台で見たことがある。眼鏡が知的で、素敵。多分(?)カンパニー最年長だと思う…(年齢不詳を除いて)
いい偽名が思いつかなかったし、あとあと面倒そうだから本名を名乗ったけどバレないかな…心配。
少し歩いたところに、MANKAI劇場があった。少し古いけど、この味が私は好き。
そのとき、いづみさんと左京さんが少し笑ったように見えた。
(どうしよう…山田くんって、誰?!)
言われるがままにやってみる。
ポケットからスマホを取り出して耳に当てる。
うんうんそーそー、と1人で相槌を打っているうちに、恥ずかしいっていう気持ちが薄れてきた。その代わりに、私だったらどうするかな、って考えてる。
ポケットにスマホを入れながら、自然な足取りで舞台袖へ。
そして、ひょこっとカーテンから顔を出した。
なんかふわふわしてる。緊張した後の開放感って本当に不思議。すごく短い、1分もないくらいのお芝居なのに、ちよっとやりきった感。
ドキドキドキドキドキドキドキドキ。
いづみさんと左京さんは兄妹とか、親子みたいで微笑ましいな。なんて、高校生の私が言うことじゃないけどね。
談話室に案内されると、美味しそうな卵やバターの香りがふわっと押し寄せてきた。
一気に6人がわっと喋るから、たちまちぽかんってなっちゃった。
そのとき、ぐぎゅるぅ、と形容しがたい音が聞こえた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。