前の話
一覧へ
次の話

第1話

トレーナー、足を捻る 〈ウオッカ〉
521
2022/10/24 12:35


「そこまで!」

そう叫び、ターフを走っていたウオッカを止める
「はぁ…はぁ……ふぅ…………タイムは?」

「2.23.6、さっきより1秒早くなってる、そんでもって自己記録まであと1秒!」

「そうか……よし、もっかい走って来る! トレーナー、計測よろしく!」

「ああ待って待って! 水分補給しないと、倒れちゃうよ」

「あーそっか、サンキュな!」

「いえいえ、トレーナーですから」
ここ最近のウオッカの伸びには目を見張るものがある。担当トレーナーとしても嬉しい限りだ

そんな彼女の成長を心の中で喜びながら、水が入ったペットボトルを渡しに行こうとしたとき


グキッ

「い”っ!!」

「い?」

「たぁ〜〜!!」
右足に突如訪れた痛みに思わず顔を歪める

え、今「グキッ」って言ったよね、「グキッ」?

何その音……もう骨折の音でしょそれは……!
「なっ……おい、どうしたんだよ! 大丈夫か!?」
突然叫んだ私を心配して、ウオッカが駆け寄って来た
「だ、大丈夫大丈夫……足捻っただけだから…………多分……」

「多分って……あんだけ大声で「いたっ!」って叫んどきながら大丈夫は無いだろ……」
ウオッカの言う通りだ、実際今めちゃくちゃ痛い

まさか歩いただけでこんなことになるとは……自分の貧弱な身体が情けない……

ウマ娘のトレーナーだし、運動してないことは無いんだけどなぁ……
「本当に大丈夫だから、心配しないで! でもごめん、ちょっと保健室で見てもらってくるね……。ウオッカは、ベンチの上に今日のトレーニングメニュー置いてるから、私が戻って来るまではそれを──」

「今は俺のことは良いから、ほら、一旦ベンチに座ろう。立てるか?」

「え……あ、うん!」
痛みに耐えながらなんとか立ち上がり、ベンチまで移動する
「ちょっと見せてみろ、どっちの足だ?」

「え? え、えっと、右です……」
するとウオッカは、地面に膝をつき、私のジャージを捲って右足を確認し始めた

捲ったジャージの下から出てきたのは、青く腫れた足首だった
「青くなってる……早く保健室行った方がいいなこれ……」

「捻挫……かな」
怪我はしてもトレーナーだ、足の怪我などの知識はちゃんと備えている
「多分そうだろうな……とりあえず応急処置だけしとこう。トレーナー、救急箱、どこにある?」

「それなら、私のバッグの中。大きいから、ひと目見たらわかると思う」

「りょーかい」
本来ならウマ娘に使うはずの物を人間に使うとは……

でもやっぱり、持ってきてて正解だったかな

そんなことを考えているうちに、いつの間にかウオッカは、私の右足首に保冷剤を包帯で巻いて当てていた
「ありがとうウオッカ! じゃあなんかあったら呼んでね。すぐ戻ってくるから」

「……あー……あのさ……」

「ん? どしたの?」

「いや……歩くの辛いだろうから、俺が抱えて行くよ」

「えっ! いや申し訳ないよ! さすがに大丈夫だって!」

「でもさっき、立ち上がるのもしんどそうだったじゃねえか……悪化するよりそっちの方が良いだろ」

「そ、そっか……でもそしたら、ウオッカのトレーニングが……」

「だーかーらー、今は俺のことは良いって! な?」

「で、でも……」

「「でも」じゃない」

「う…………」

「あのな、もしそれで俺だけ残ってトレーニングしてたって、アンタのことが心配で集中できないっての」

「え、そうなの?」

「ああ、だから保健室くらい付き添わせてくれよ」

「あ……う、うん」

「よし、んじゃ、俺の肩に掴まれ」
そう言われ、ウオッカの肩に手をまわす
「じゃあ立つぞ、よっ…と」
するとウオッカは私を抱えて立ち上がった、いわゆる ”お姫様抱っこ” の状態だ

軽々と持ち上げられ、改めてウマ娘と人間の筋力の差を体感する

私を持ち上げたウオッカは、保健室に向けて歩き出した
「……私、重くない?」

「重くなんてねーよ、ウマ娘のパワーだったら楽勝だぜ!」

「そっか…………ねえ、ウオッカ」

「? どうしたんだ?」

「やっぱりウオッカは、最高にカッコイイね」

「…………へへっ、そーだろ? ま、俺は世界で一番カッコイイウマ娘だからな!」
そう言ったウオッカは、私に向かってニカッと笑い返した

プリ小説オーディオドラマ