第4話

イヤな子〈ナイスネイチャ〉
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2022/06/05 01:59
「え、トレーナーさん……彼氏、できたの……?」
トレーナーさんに、彼氏。
「うん、お見合いで知り合った人なの。結婚を前提にお付き合いしてください、って」

「あ……そ、そうなんだ! おめでたいねぇ」

「ありがとう! 素敵な人だから、今度ネイチャにも紹介するね!」

「……そっか! あーあ、私もいい人に出会いたいなぁ」
トレーナーさん以外の人なんて、もう、考えられないんだけど
「ふふ、ネイチャってまだお金持ちのイケメン彼氏募集してるの?」

「黒歴史やめて」
次の日から、驚くほど記録が下がっていった
「ネイチャ、最近調子悪そうだけど、どうしたの? …私でよければ相談にのるよ」
……ひとつだけ、心当たりがある

昨日の件だ。自分でも気づかないうちにかなりショックを受けていたのだろう

でもそんなこと、トレーナーさんに言えるわけない

トレーナーさんは優しい人だから、昨日のことが原因、なんて言ったら、きっと私のことを優先して、彼氏さんと別れようとする

そんなの絶対にダメだ。 アタシのために、トレーナーさんの幸せを棒に振ってほしくない……!
「……ううん、なんにもないよ。またタイム縮められるように頑張るからさ。よーし、そんじゃ、もう1周走ってきますか!」

「……ネイチャ…………」
それから数ヶ月間、アタシはもとの記録を超えることができなかった
──数ヶ月後──
トレーナーさんが彼氏さんと別れた

なんでも例の人が、暴力を振るってくる最低男、いわばDV彼氏だったらしい
「私……あと少しで殴られてた……怖かった……怖かったぁ……」
それを聞いて、もちろんその男への怒りは湧いてきた

トレーナーさんを傷つけようとしたこと、こうして泣かせていること、全部許せなかった

でもそれ以上にアタシの中は、トレーナーさんが男と別れたことに対する安堵感でいっぱいになっていた

まだアタシだけのトレーナーさんなんだ。誰にもとられることはないんだ

そう思うと、自然と口角が上がっていた

机に伏せて泣いているトレーナーさんを、うしろから抱きしめる
「トレーナーさん、そんな人別れて正解だよ。大丈夫、アタシがずっと、トレーナーさんの傍にいるからね」
……あーあ、アタシってほんとイヤな子。

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