第7話

好き嫌い その3
81
2021/03/28 17:43
本田康祐
嫌ってる人を好きになる方法?
 私は恥ずかしさで顔を上げられず、俯いたまま頷いた。
佐野文哉
いや、あなたさん、どうしてそんな風に思うの?
 小さく息をつく。大丈夫。ゆっくりと手を握り締める。
あなた
嫌われてるって気付いたとき、悲しかったんです。ただただ悲しくて、でもそれが見えれば見えるほど憎くなって嫌いになってった。そうしたら不思議と姿を見るだけでもいやになり、話を聞くだけでも嫌悪感が走るようになってしまったんです。そんな自分が嫌で嫌で。
浦野秀太
いや、当たり前の気もするけど?
中川勝就
嫌われてるんやからな?
あなた
でも、おなじ土俵にあがって、私を嫌うなら私もそうするなんてどうだろうって。もっと大人になって、私を嫌いな人は気にしないでいたいのに
佐野文哉
でも、あなたさん。万が一好きになれたとしてもそれって悲しくないですか?
あなた
え?
佐野文哉
もう嫌われているわけですよね?じゃあ、万が一好きになったとしてもその気持ちはやっぱり一方通行じゃないですか。
あなた
そうなりますね
佐野文哉
それって、あなたさんが悲しくなりませんか?自分を傷つける行為にしか思えない
本田康祐
俺は、嫌いだから嫌いでもいいと思うし、そういう感情があってこその人間だと思うけどな?
浦野秀太
その人が全てな訳じゃないですし、嫌ってもいいと思いますけどね?
中川勝就
同じ土俵言うけど、全然ちゃうやんな。その相手は勝手に嫌ってたわけやろ?
あなたさんはそれでも嫌わないようにって努力してたやん
あなた
いや、でも、努力なんて全然
浦野秀太
ほっとくのが一番じゃないかな?
本田康祐
好きの反対は嫌いじゃなくて無関心。あなたさんが関心を持たなければいい。もちろん今すぐには無理だと思うけどね?
佐野文哉
焦らず、ゆっくりだよ。あなたさん。どうしても気になるんだったらそういえばいいし、自己嫌悪に陥るんだったらまた愚痴りに来てもいい。今すぐになんて人は変われないんだから
 ポツポツとカウンターに水滴が落ちる。浦野さんはそっとおしぼりを差しだし何やら音楽をかけに行ったようだ。中川さんは食器を下げ奥へ洗いにいく。本田さんはなにも言わずにグラスを磨き始めた。佐野さんは横に座ったまま背中をさすってくれていた。
 その気遣いも嬉しく、そのままその場でしばらく泣いた。
 嫌われていることを受け入れるってなかなか難しい。それを無関心になることも私にはまだ難しかった。

「私たちを嫌いな人のことはほっとこうね」

 誰かの声が聞こえる気がした。そうなれるようになりたいな。

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