まさかとは思ったが、私の脳内にはディオの存在しか浮かばなかった。
小さい子供、男の子、姉さん……ディオとしか思えなかった。もしや、さっき聞こえてきたあの足音も……考えたくもなかった。
こんな夜中に、1人で外に出ているなんて、想像したくもない。第一、私がこんな仕事をしていることを知られたくなかった。
もしそれで変な噂でも立ったら、間違いなくディオはいじめられる。それだけは嫌だった。ディオを辛い目に遭わせたくなかった。
ディオを傷つけないためにも今は……他人のフリをするしかない。心が傷むが、これもディオのためなんだ。
言いにくかった。次の言葉を。言いたくなかった。もしかしたらディオを傷つけてしまうかもしれない。
周りの人に傷つけられるとかそう言う話以前に、そもそも私がディオを傷つけていた。今更ながらそこに気付いた。
しかし、こんな職場で私が働いていることを知られるのは嫌だった。ディオの笑顔を二度と見られなくなるような気がした。
だから、私は涙ながらに言った。
私がそう言うと、暫くの沈黙が流れた。暫くすると、先輩がこちらに話しかける。
大いなる罪悪感に苛まれて、止まらない涙を拭いながらそう怒鳴った。察しの良いディオには、私が泣いていることもバレているだろう。
出ていくのであろうディオの声が聞こえてきた。無理矢理追い出されそうになっているのか「離せ!」と叫んでいる。
明らかに殴られたような音が聞こえた。恐ろしくなった私は思わず椅子から立ち上がってしまった。しかし、見に行く勇気はなかった。
崩れるように床に座って、声を必死に我慢して泣いた。私はなんてことをしてしまったんだろう。ディオをこんな目に遭わせてしまった。
偶々やって来た先輩が私を見てギョッとした。
先輩にそう言われた私は、ゆっくりと頷くしか出来なかった。立ち上がろうとしたその時、ドタドタと足音が聞こえてきた。
やって来たのは、息を切らしながら私を呼ぶディオだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。