散々泣いた俺は今度こそ寝た。流石に泣き過ぎた。目が覚めた頃にはとっくに日が昇って朝になっていた。
ふと横を見たが、そこに姉さんの姿は無かった。いつの間に起きていたのかと思ってすぐに探すと、朝ご飯を作っていた。
俺の足音に気付いた姉さんはこちらを振り向くと、優しい笑顔で「おはようディオ」と挨拶をしてくれた。そんな姉さんも愛おしくて俺も笑顔で同じ挨拶を返した。
ふと、テーブルに置かれている懐中時計を見ると……
普段の俺だったらとっくに家を出ているような時間だった。今日に限って寝坊をしてしまうとは。着替えに行くために急いで部屋に戻ろうとした時だった。
姉さんが「待って!」と俺を止めた。
ビックリして思わずマヌケな声が出てしまった。暫く学校には行かなくて良い?じゃあ俺は今から急いで着替える必要はないと言うことか?
急なことに数秒固まったが、すぐに冷静になってテーブルの椅子に腰掛けた。
そう言って困り顔で微笑む姉さん。なんだか儚かった。今にも消えてしまいそうなオーラが出ていたような気がした。
だけど、何より久し振りに姉さんと1日いられることが嬉しくてそこについてはあまり気にしなかった。
なんだかいつもよりちょっと良い朝ご飯を持って来た姉さん。学校のことを考えずにこうして過ごしていられるなんて、何年ぶりだろう。
ずっとこんな時間が続けば良いのにな、と思いながら置かれた朝食に目をやった。やっぱり姉さんは料理上手だ。
「ディオには敵わないわね…。」と言いながら向かいに腰掛けた姉さんは、何故か目の前の朝食に手をつけず、じっと俺を見ていた。
吸い込まれるように俺も姉さんを見つめ返す。姉さんも俺も同じオレンジ色の瞳を持っているはずなのに、どうしてこうも違うものに見えるのだろう。
今にも俺の意識を飲み込んでしまいそうな、どこかキケンな感じのする瞳から目をそらせなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。