家に着いた頃には、ディオはすっかり眠ってしまっていた。なんとか寝てくれたようで安心した。先ほどの行動に驚いてしまって、冷静でいられなかったから。
慎重に、音を立てないようにドアを開ける。階段付近に来た時にお父さんのいびきが聞こえてきたので、安心した。こんな時間に外に出ていたことを知られたら怒られてしまう。
実を言うと、私が今やっている仕事の内容をお父さんに伝えたことは一度もない。お金さえ入れば良いと思っているような人だから、言う必要がないと思ったのだ。
階段を上がってディオの部屋のドアを開ける。靴だけ脱がせてすぐにベッドに寝かせ、布団をかけてあげた。私が部屋から出ようとベッドから立ち上がった時だった。
寝ながらそう言って私の手首をギリギリと掴むディオ。あまりの力の強さに一瞬顔をしかめた。ディオは本当に寝ているの…?
ディオに思わず疑いの視線を向けたが、ディオは私の手首を掴んだっきりぐっすりと眠ってしまっている。
だけど、寂しそうだったから私はそのまま一緒にいてあげることにした。ディオの手を握って、ずっとディオの寝顔を見ていた。
散々泣いたからか目元が真っ赤になっている。
ディオを起こさないようにそっと小声で言った。涙の跡が残っているのが見えて、更に罪悪感が増す。
少し出てきた涙をすぐに袖で拭う。私が泣いてどうするの、一番泣きたいのはディオなのに。
自分の情けなさに怒りがわいた。所詮、私がお母さんの代わりになるなんて不可能だったのだ。子供では大人に勝つことは出来ないのだ。
私がもっと頑張らないといけない。少しでもお母さんのような女性になれるように。まだ努力が足りていないのなら、もっと努力するのみだ。
明日からは更に全力を出していこうと決めたところで、段々瞼が重くなっていくことに気付いた。自分のベッドで寝ようかと思ったが、なんだかディオを置いて行けなかった。
どうしようかしら…自分の部屋に戻る?ここに残る?そうぐるぐる悩んでいるうち、気付いたら私は完全に目を閉じていた。
目を閉じてからはすぐに眠ってしまったので、私が静かになった直後にディオが目を開いたことに気付けなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!