一方でハナレの方も朝餉の時間に山姥切に同じような話を伝えていた。昨日、山姥切はハナレに街の景色を見せてもらい、自分達の居た国、“世界”では無いのかもしれないと薄々察した。そのことはハナレには伝えず、城で一晩過ごすことになり、今に至る。
山姥切は傍に置いていた“へし切長谷部”の刀を不安気に見つめた。その姿を見ていたハナレは「一応聞いておくが……盗賊とかではないよな?」と渋々尋ねる。
山姥切がフッと笑うと、ハナレが「……笑うな」と複雑そうな表情を浮かべた。
ハナレが頷くと、山姥切は「すまん。何か企んでいるとかではないんだが……仲間の大事な刀だから心配になってしまってな」と片手で頭を抱えた。そんな山姥切を見たハナレもまた、クスッと笑った。
昔を思い出すかのように微笑みながら視線を下に向ける山姥切を見て、ハナレは「その主は、随分と慕われているんだな」と口にした。
ハナレが「何年の付き合いなんだ?」と聞こうとした時、部屋の外から「失礼致します、ハナレ様。公務のお時間が……」と従者の声がし、ハナレは「分かった。今行く」と返事をした。
部屋に一人残された山姥切はへし切長谷部の刀を片手に持ち、「主……。兄弟。心配しているだろうか」と小さく呟いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。