第8話

六話 王子
212
2022/02/28 16:36
加州清光がカノエの城に向かっていた間、同じこよみの国の別の領では、違う青年が亥の一族のハナレ王子と、戌の一族のイヌイ王子、子の一族のシン王子によって助けられていた。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
……っなん、だ?ここは……
ハナレ
ハナレ
気が付いたか
イヌイ
イヌイ
ようやくお目覚めみてぇだな
シン
シン
身体の方は問題ないかな?
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
あ、あぁ……今の所は。しかし、俺は何を……。皆と遠征に出掛けていたはずだというのに
シン
シン
“皆”?君の他に、誰かいたのか?
イヌイ
イヌイ
遠征ってどういうことだ
金髪の青年は「俺は、仲間と一緒に仕事で遠出していたんだ。すまないが、これ以上は話せない」と申し訳なさそうに謝り、「アンタ達は誰なんだ?」と三人を見た。
三人は互いの顔を見合ってから、自分達の名前と素性を明かし、こよみの国についても話した。
仕事の話をする為、シンとイヌイはハナレの城へ集まっていたのだが、青年はハナレの城の付近で倒れていたらしく、ハナレの従者がそれを見つけたという。
そして、そのままハナレの許可を得て城へ運んだらしい。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
聞いたことない国名だな。しかも、王子って……。日本は君主制では無かった筈だが……
ハナレ
ハナレ
ニホン?という国に住んでいるのか?あんたは
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
あぁ
シン
シン
僕も、聞いたことがないね。
その様な国は
イヌイ
イヌイ
今更だけど聞いたこともない国出身で、素性も明かせないようなやつ、城に入れて本当に良かったのか?
ハナレ
ハナレ
倒れていたのだから仕方ないだろう。放って置く訳にも行かなかったからな。それに、運ぶのに一番近かったのは俺の城だった
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
その、助けて貰って悪いが……俺は帰らねば。行動を共にしていた仲間が無事なのかも気になるしな
青年が立とうとすると、イヌイが「まぁ待てって」と、青年を引き止めた。
イヌイ
イヌイ
帰るったって、知らない国からの帰り方分かるのかよ。あと、聞きそびれたが名前なんて言うんだ?
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
……山姥切国広、だ
山姥切が答えると、何かを思い出したかのように再びイヌイが「あぁ、そうだ。これ、お前が倒れてた横に落ちてた。これもお前の刀か?」と言い、一振の刀を前に出す。その刀を見た山姥切は目を見開き、前のめりになる。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
へし切長谷部の刀……?いや、刀そのものから霊力を感じるし、まさか……刀に戻って?しかし、何故……
イヌイ
イヌイ
おい、どうした。
今度は独り言か?
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
いや……これは、仲間の刀だ。
拾ってくれて助かった
山姥切は自分のポケットの中に“ある物”が入っているのを思い出し、失くなっていないか確認する。
元いた場所へ帰る為の装置、“携帯型時空転移装置”だ。
携帯型時空転移装置がちゃんとポケットに入っていると分かると、山姥切は胸を撫で下ろした。
シン
シン
……僕達は席を外す。君は少し休んでいるといい。イヌイ、ハナレ
話がある、とでも言うような目線をイヌイとハナレに向け、二人はそれを察したのか、シンの後に続いて部屋から出る。そして、ハナレは近くにいた従者三人に、「部屋の前で見張っていろ」と指示を出した。
廊下を歩きながらイヌイが「良いのか?放っておいて」とシンに確認する。
シン
シン
……彼、人には言えない何らかの事情がありそうだな。素性不明な男をこのまま置いておくわけにはいかないが、万が一の場合も考えると野放しにも出来ない。仲間が何人いるかは知らないが、彼の口振りからして仲間も刀を持っているようだ
ハナレ
ハナレ
刀を帯刀していたが……仲間とは何の仲間なのか、人に話せないような仕事、遠征とは何か……。気になる部分は確かにあるな
イヌイ
イヌイ
そう考えると、何で城付近で倒れていたのかも怪しくなってくるよな
シン
シン
念には念を入れておかないといけない。其れに、彼が何もしないと言う保証もないからね
ハナレ
ハナレ
……なら、俺があいつと話をして探りをいれてみよう。仕方ないとはいえ、城内に招いたのは俺だしな。何かあれば、俺も戦える
イヌイ
イヌイ
王子自ら挑む気かよ……。ま、そこまで言うなら今日の所はお前に任せて様子見するか
一方、三人が部屋から居なくなったあと、山姥切はポケットから携帯型時空転移装置を取り出し、試しに起動させる。しかし、動くには動くものの、本丸へは帰れなかった。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
無理、か。困ったな。さっきの王子三人、派手ではあるが着物を着ていたし、城の内装の雰囲気からしても和風……。でも、日本ではないと言うし、俺は一体何処にいるんだ?さっきも言ったようにこよみの国なんて聞いたことないぞ。外がどうなっているのかも知らないし。……外、か
山姥切は静かな

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