カノエ達が月影の国へ向かった別の日、僕とイヌイ、ハナレは宝石の国・オックスへと訪れていた。キース王子、トトリ王子、ジーク王子に宝石の国を案内してもらっている最中、ある人物達が視界に入る。
何故か宝石の国の王子が集合しており、傍には見知らぬ少年と少女が二人居た。どうやらイヌイやハナレも彼等に気付いたようで、「彼等も確か、宝石の国の王子だったな?」とジーク王子達に聞く。
ハナレが言うと、トトリ王子が「ああ。彼等は……」と説明し始める。その間も、他の宝石の国の王子達は楽しげに話をしている。
トトリ王子の話によればどうやら、少女のような格好をしている子は“少年”で、“乱藤四郎”と言うらしい。
もう一人の少年は“物吉貞宗”と言い、どちらも変わった名前だ。
話を聞いた僕は、イヌイ達と視線を静かに合わせた。きっとその二人は、あの付喪神達の仲間だろうと察していたからだ。宝石の国の王子達は二人の正体を知らないようだが。
彼等の元へ歩いていくと、こちらに気付いた全員が「あ!」と声を上げた。一方で、付喪神の二人は誰?とでも言うような表情で僕達を見る。
乱も物吉も、短刀ではあるがやはり刀を帯刀していた。正体を知らない宝石の王子達が居るこの場で、彼等について質問をするのもどうかと思ったが、これからキース王子の城へ戻ることになっている。今を逃せば、彼等も王子達の城へ戻って行ってしまうだろう。それに、僕達は夕刻になればこよみの国へ帰ってしまう。なので、せめて彼等の仲間がこよみの国に居て、僕達が彼等の正体を知っているのを伝えなければ。
加州達は仕方なく僕達に素性を明かしてくれたが、彼等については基本的に口外禁止。
助け合うためとはいえ、本来部外者である僕達が無闇矢鱈に彼等の正体を他者に言いふらすものでは無いだろう。
だが、時間遡行軍がこの世界に来ていることを乱達はきっと知らない。加州達が時間遡行軍を倒してはくれたが、もしかしたらまだ他にいる可能性だって否定は出来ない。この国にも現れるかもしれない。
なので、宝石の国の王子達が話している間に僕は小声で乱達に声を掛けた。
僕が言うと、二人は一瞬目を見開いてから「はい!有難うございます!」と笑顔でお礼を言う。
宝石の国はこよみの国からさほど遠くはない。なので今回は、この二人を宝石の国へ置いていくが……もしも、こよみの国より更に離れた国で彼等の仲間を見つけたならば、その際は連れて行かねばならない。そんな国まで行く機会があればの話だが。
※国同士の距離は公式とは関係なく、明らかにされているのかすら分からないので“まあ直ぐに行けない距離では無い”とだけ思っておいて下さい。
つい先日、カノエやヒノト達が月影の国へ訪れた際、“刀”を取り戻しに来たという謎の青年の話をギルバート王子から聞いたという。
加州達の仲間である“へし切長谷部”と呼ばれる付喪神も、原因は不明だが刀の姿に戻って居る。なのでヒノト曰く、謎の青年が取り戻しに来た“刀”も、謎の青年本人も、加州達の仲間かもしれないとのこと。
その一方、謎の青年は実は敵で、刀剣男士が顕現しないように刀を回収しているのでは無いのかといった話も出てきたが……謎の青年は不思議な狐を連れていたらしい。カノトの話によれば、“こんのすけ”と呼ばれる狐なら仲間に居ると今剣から聞いたという。
僕達が小声で話をしていると、ジーク王子達が振り返って「どうかなさいましたか?」と聞いてくるので、「いや、何も無い」と誤魔化しておいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。