第20話

十七話 宝石の国 シン視点
215
2021/01/28 16:27
カノエ達が月影の国へ向かった別の日、僕とイヌイ、ハナレは宝石の国・オックスへと訪れていた。キース王子、トトリ王子、ジーク王子に宝石の国を案内してもらっている最中、ある人物達が視界に入る。
ペルラ
ペルラ
ふぁああ……なんでぼくまで……
アルマリ
アルマリ
トルマリが“案内”も兼ねて皆で買い物しようって言ってたから……
トルマリ
トルマリ
そうそう。何時も寝てばかりでしょー?たまには外に出ないと!
ティーガ
ティーガ
にしても偶然だったな。お前らと会うなんて
リド
リド
そのせいで俺達も買い物に付き合わされることになったんだけどな
サイ
サイ
なんだか賑やかになったね
何故か宝石の国の王子が集合しており、傍には見知らぬ少年と少女が二人居た。どうやらイヌイやハナレも彼等に気付いたようで、「彼等も確か、宝石の国の王子だったな?」とジーク王子達に聞く。
ジーク
ジーク
えぇ。そうですよ
トトリ
トトリ
皆お揃いで……。何をしているのでしょうかね
キース
キース
挨拶も兼ねて、少し声をかけてみるか
イヌイ
イヌイ
ん?隣に居る二人は誰なんだ?
ハナレ
ハナレ
確かに、知らない少年と少女がいるな
ハナレが言うと、トトリ王子が「ああ。彼等は……」と説明し始める。その間も、他の宝石の国の王子達は楽しげに話をしている。
トルマリ
トルマリ
ねぇ、“乱”!この服可愛くない!?
乱藤四郎(極)
乱藤四郎(極)
本当だー!あ、でも、こっちの桃色の服も可愛いよね
アルマリ
アルマリ
二人とも、初対面の時から意気投合してるよね
物吉貞宗(極)
物吉貞宗(極)
ふふ。そうですね。仲が良くて微笑ましいです
トトリ王子の話によればどうやら、少女のような格好をしている子は“少年”で、“乱藤四郎”と言うらしい。
もう一人の少年は“物吉貞宗”と言い、どちらも変わった名前だ。
シン
シン
城の付近で乱と言う少年が倒れており、物吉と呼ばれる少年が従者に助けを求めたことがきっかけで会ったと……?
ジーク
ジーク
そうなりますね。トルマリとアルマリの住んでいる城に二人がいて、今も居候と言う形で寝泊まりしているそうですよ
ハナレ
ハナレ
(城の付近に、二人が……?)
キース
キース
トルマリと乱は傍から見ると二人の娘にしか見えないな
トトリ
トトリ
物吉くんは初めてお会いした時、他国の王子かと思いました。でも、よくお話してみたところ、二人とも王族ではなく、気が付いたら宝石の国にいたそうで……。自分達の国へ帰る方法が分からないらしく、他人に口外できない話もあるみたいです
ジーク
ジーク
謎な部分は多いですが、トルマリが乱と意気投合しまして……。自然と居候することになったみたいですよ
話を聞いた僕は、イヌイ達と視線を静かに合わせた。きっとその二人は、あの付喪神達の仲間だろうと察していたからだ。宝石の国の王子達は二人の正体を知らないようだが。
シン
シン
……僕達も、挨拶をしに行って良いかな?
キース
キース
勿論だ
彼等の元へ歩いていくと、こちらに気付いた全員が「あ!」と声を上げた。一方で、付喪神の二人は誰?とでも言うような表情で僕達を見る。
ティーガ
ティーガ
来客が来てるってのは聞いてたけど……こよみの国の王子が来てたのか!
リド
リド
こら!まずは挨拶だろ。ようこそ、宝石の国へ
サイ
サイ
でも、宝石の国の王子が全員揃うなんて……約束してた訳でもないのに、凄い偶然だね
乱藤四郎(極)
乱藤四郎(極)
こよみの国の、王子様?
イヌイ
イヌイ
俺は戌の一族の王子、イヌイだ。
にしても……“男”って聞いたが、へぇ?間近で見ても可憐な“少女”にしか見えねぇな
乱藤四郎(極)
乱藤四郎(極)
可憐って……褒めるのが上手だね王子様!僕は乱藤四郎。王族じゃないけど、トルマリ達と仲良くさせてもらってるんだ
物吉貞宗(極)
物吉貞宗(極)
物吉貞宗です。僕も王族ではありませんが、どうぞよろしくお願い致します
ハナレ
ハナレ
俺は亥の一族の王子、ハナレだ。よろしく頼む
シン
シン
子の一族の王子、シンだ。よろしく
乱も物吉も、短刀ではあるがやはり刀を帯刀していた。正体を知らない宝石の王子達が居るこの場で、彼等について質問をするのもどうかと思ったが、これからキース王子の城へ戻ることになっている。今を逃せば、彼等も王子達の城へ戻って行ってしまうだろう。それに、僕達は夕刻になればこよみの国へ帰ってしまう。なので、せめて彼等の仲間がこよみの国に居て、僕達が彼等の正体を知っているのを伝えなければ。
トトリ
トトリ
皆さんはここで何を……?
ペルラ
ペルラ
トルマリの買い物に付き合わされてる……
ジーク
ジーク
な、なるほど?
加州達は仕方なく僕達に素性を明かしてくれたが、彼等については基本的に口外禁止。
助け合うためとはいえ、本来部外者である僕達が無闇矢鱈に彼等の正体を他者に言いふらすものでは無いだろう。
だが、時間遡行軍がこの世界に来ていることを乱達はきっと知らない。加州達が時間遡行軍を倒してはくれたが、もしかしたらまだ他にいる可能性だって否定は出来ない。この国にも現れるかもしれない。
なので、宝石の国の王子達が話している間に僕は小声で乱達に声を掛けた。
シン
シン
乱藤四郎、物吉貞宗と言ったね?
物吉貞宗(極)
物吉貞宗(極)
は、はい。何か……?
シン
シン
単刀直入に言わせてもらうと、“時間遡行軍”が他にも夢世界に来ている可能性がある
乱藤四郎(極)
乱藤四郎(極)
……!何故、それを?
シン
シン
君達の仲間がこよみの国に何人かいるんだ。加州や山姥切……と言えば分かるかな?やむを得ない事情で、彼等から素性を聞いたから僕達は君達の正体を知っている
物吉貞宗(極)
物吉貞宗(極)
……!他の方達も……こちらの世界に……
シン
シン
出来ることなら君達をこよみの国へ連れて行きたい所だが、万が一、宝石の国に時間遡行軍が現れた場合……倒せるのは君達だけだ
乱藤四郎(極)
乱藤四郎(極)
確かに……そうなるよね。トルマリ達から聞いたけど、逆に“ユメクイ”は王族しか倒せないみたいだし……
物吉貞宗(極)
物吉貞宗(極)
時間遡行軍が現れたその時に、宝石の国の王子達に正体を明かした方が良さそうですね。現れなかったら現れなかったで、僕達は素性を隠して帰る方法を見つけるだけです
シン
シン
そうだね。では、君達のことは加州達に伝えておこう
乱藤四郎(極)
乱藤四郎(極)
うん。急に僕達が居なくなったらきっとトルマリ達が心配するだろうし……。
ねぇ、元の世界へ帰る手掛かりが少しでも見つかったら、僕達も貴方達の国に行ってもいいかな?今はまだでも、どの道合流しないと行けなくなるだろうし
物吉貞宗(極)
物吉貞宗(極)
帰る方法が見つかってもいないのに、仲間が見つかる度一つの国へ集まるとなると、王子様達も大変でしょうし……。僕達はまだこの国に残った方が良さそうですね
シン
シン
あぁ。それと、こよみの国へは来たい時に来ればいい。仲間にも会いたいだろうしね。時間があれば、加州達を連れて僕達もこの国へ再び訪れよう
僕が言うと、二人は一瞬目を見開いてから「はい!有難うございます!」と笑顔でお礼を言う。
宝石の国はこよみの国からさほど遠くはない。なので今回は、この二人を宝石の国へ置いていくが……もしも、こよみの国より更に離れた国で彼等の仲間を見つけたならば、その際は連れて行かねばならない。そんな国まで行く機会があればの話だが。

※国同士の距離は公式とは関係なく、明らかにされているのかすら分からないので“まあ直ぐに行けない距離では無い”とだけ思っておいて下さい。
ハナレ
ハナレ
あの二人は連れて行かないのか?
シン
シン
今は、な。二人にはもう少しだけ、宝石の国へ滞在していてもらうことにした
イヌイ
イヌイ
時間遡行軍が現れた時の為にか?
見つけたんなら、一箇所に集めた上で後からまとめて帰らせりゃあいい……とも思うが、何人こっちの世界に居るか分からないし、帰り方も分からない。そんな中、こよみの国に全員集合したら付喪神で溢れかえっちまうもんな
ハナレ
ハナレ
確かに、そうだな。王子とは言え、流石の俺達も大人数となれば全員に目をやる暇もなくなるだろうし。とは言え、山姥切達なら面倒なんて見なくても問題なさそうではあるが
シン
シン
それに……
つい先日、カノエやヒノト達が月影の国へ訪れた際、“刀”を取り戻しに来たという謎の青年の話をギルバート王子から聞いたという。
加州達の仲間である“へし切長谷部”と呼ばれる付喪神も、原因は不明だが刀の姿に戻って居る。なのでヒノト曰く、謎の青年が取り戻しに来た“刀”も、謎の青年本人も、加州達の仲間かもしれないとのこと。
その一方、謎の青年は実は敵で、刀剣男士が顕現しないように刀を回収しているのでは無いのかといった話も出てきたが……謎の青年は不思議な狐を連れていたらしい。カノトの話によれば、“こんのすけ”と呼ばれる狐なら仲間に居ると今剣から聞いたという。
イヌイ
イヌイ
その狐が“こんのすけ”って狐なら、謎の青年とやらも仲間で間違いないってことか
シン
シン
その通り。けれど、直接見た訳でもなければ、特徴が抽象的なのもあり、確認することは出来ない。だから断言するのは難しいが……ここは、可能性を信じてみよう
ハナレ
ハナレ
そうだな。その青年が仲間で刀剣男士を探しているのならいずれ、“刀”の姿でない乱達や加州達の前にも現れるだろう。単純過ぎるのもよくないが、これ以上難しく考えて話をややこしくしても仕方ない
僕達が小声で話をしていると、ジーク王子達が振り返って「どうかなさいましたか?」と聞いてくるので、「いや、何も無い」と誤魔化しておいた。

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