第17話

十四話 魂の解放 ハナレ視点
213
2021/01/23 14:48
────────ハナレの城、山姥切の部屋にて。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
では、今日からまた暫く世話になる
ハナレ
ハナレ
あぁ。よろしく。
ところで、あんたが持ってるその“へし切長谷部”って刀も一応刀剣男士なんだろ?どんな付喪神なんだ
俺が聞くと、山姥切は片手に持っている
刀のへし切長谷部に視線を一度移してから、再度正面を見る。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
一言で言えば、生真面目で主ガチ勢な主世話係だな
ハナレ
ハナレ
主世話係はまだ分かるとして、あ、主ガチ勢、とは?
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
主に忠実過ぎる家臣みたいなもんだ。一部からじゃあ主の忠犬なんて呼ばれてたりするが
ハナレ
ハナレ
随分な言われようだな……良いのかそれで
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
本人は満更でもないようだがな
ますますどんな付喪神か気になってしまうが、彼等の主である審神者にしか刀剣男士を顕現させることは出来ない。どうせなら、彼等の主とも会ってみたいものだ。
ハナレ
ハナレ
付喪神を従える主、か
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
……気になるのか?
ハナレ
ハナレ
少し、な。付喪神のあんたに“恩人”と言わせる程の人物のようだしな
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
俺が今の俺でいられるのは、近くで支えてくれた兄弟や俺を“受け入れてくれた”仲間のおかげもあるが、主のお陰でもある。あいつが俺に手を差し伸べなかったら、俺は今頃……此処には居なかっただろうな
そう話す山姥切の表情は何処か吹っ切れていて、晴れやかだ。余程信頼し、感謝しているのだろう。
ハナレ
ハナレ
と言うか、兄弟がいるのか?むしろ、兄弟なんて概念……刀の付喪神であるあんたらにあるもんなのか
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
細かいことをいえば、血の繋がりがあるとか、人間みたいに両親が居るとかでは無いし、曖昧な部分も多い。だから、刀派によっては誰が兄で、弟でなんてハッキリ決められなかったりするが……同じ刀匠から打たれた刀を“兄弟”と呼んだりするな。打たれた年代が早ければ“兄”になるし、遅ければ“弟”になる。そうでない者もいるみたいだが。だが、そうなると俺達にとっての“親”はその刀匠と言っても過言じゃないな
ハナレ
ハナレ
造り手が親、か。言われてみれば、納得出来るかもしれない。造り手がいるからこそ、物が生まれるわけだしな
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
そうだ。そして、長年大事にされれば、例えボロボロになったとしても物に魂が宿る。粗末に扱えば、それこそ折角宿った魂が“堕ちて”しまう。本来、付喪神は自分を大事にしてくれた持ち主を大事にする。酷な扱いを受けたとしても、ギリギリまで耐えて耐えて……そして限界に達した時、持ち主に牙を剥くただの……妖怪の付喪神となり得る。妖や妖怪、物の怪と言うのは今じゃほとんど同じ意味で使われたりするが……実際は異なるんだ
付喪神と聞けば、山姥切が言ったように真っ先に人ならざる物の怪の類を想像してしまうが……山姥切を見ていると、此奴はやはりそういったモノとは違うのだと再認識する。
それに加えて、神格ある付喪神の此奴が言うと、人が言うよりも説得力がある。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
俺は主の為の刀。主の“モノ”だ。俺がボロボロになるまで主が大事に使ってそばに置いてくれるのなら、俺はこの身が朽ち果てるまで、主の為に自らを振るう。主に会った時、そう決めた
ハナレ
ハナレ
……真っ直ぐなんだな。神様のあんたにそこまで言わせ、想われる主も中々に大したものだ。けど、人の身を得てもあんたは自分を“モノ”と言うんだな。人の身を得たのなら、持ち主から解放されて自由に生きたいとは思わないのか?自分で考え、決める意思も、動く身体もあるわけだし
俺が聞くと、山姥切は目を見開いて驚き、かと思いきや考え込むようにして俯いてしまう。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
幾ら人の形をしているとは言え、アンタは人ならざるものを人と呼ぶのか?
人の身を得たところで本質は変わらない。自分で考えることが出来たとしても、元が物の刀である限り、俺には俺を使ってくれる持ち主の主が必要で、俺はそんな主に使われることを悪いとは思わない。むしろ、主から使われなくなることの方が余程致命的だ。だから、そういう意味で主から解放されたいと思ったことはない
ハナレ
ハナレ
やはり、人とは感覚が異なるのか……。人は物扱いされれば大半は不満を抱く。むしろ、俺達にとってはそれが当たり前とも言える。けど、あんた達は逆なんだな
山姥切は「まぁな」と軽く笑い、遠くを見つめた。末席とは言え、神様とこんな風に話すことは早々ないだろう。不思議な感じだ。
山姥切国広(極)
山姥切国広(極)
(主から解放されたい、か。思ったことはない。そう……“今の主に対して”はな)

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