side:YOU
まだ口の中に残るあのふわふわな食べ物と
いちごの甘い香り。
初めて食べた、とても美味しいと感じた
いつも家で出されているパサパサでカビの生えた
パンよりもずっと美味しかった
… でも、すこし量が多かった。
いつも1日に一回半分のパンと水しか出されず
胃の収縮している私にとって
今日食べた食べ物の名前を口にしてみる
五条くんはスイーツだと言っていた
スイーツというのは、どれもあんなに美味しいのだろうか?
失敗作の私は家の裏口からそっと入る
立てかけの悪い引き戸を閉めて
小さな声で帰りの挨拶を告げると、
奥の方からドスドスという足音が聞こえてくる
父の手には長い鞭が握られている
… ああ、これから殴られるのか。
そう思って私は大人しく地下の部屋に行く
狭くて、暗くて、寒くて、錆びた匂いが鼻を通る
せっかく五条くんや夏油くん、硝子ちゃんが選んでくれた服を
傷つけられたくなくて全て脱ぐ
五条くんと過ごした時間を、
楽しいと思ってしまった。
夏油くんや硝子ちゃんを友達だと思ってしまった
こんな本来日の当たることを許されない私は、
彼らと一緒に過ごしてはいけないんだ
助けを呼ぶことも許されない
だって私は失敗作なのだから。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。