私が引いた人は_
説明をし終わってPCと睨めっこをしていたもふくんが驚いた顔でこちらを見る。
そう言ってPCを閉じ、嬉しそうにこちらへ来る。
みんなに見送られ、玄関を出る。
何処かに行くのかと思ったら、散歩と言われてしまった。
正直少し疲れてるから、急に連れ回されるよりかは楽な方かもしれない。
それから、私たちはカフェで昼食をとり、目的地へと向かった。行き先を教えて貰えず、私はもふくんの横を淡々と歩き続けた。
しばらく歩くと、もふくんが急に止まる。
昼食をとっている時に、質問して唯一答えてくれた、「大きな公園で散歩するだけ。」というセリフ。
でも、“公園”では無い。温室のようにビニールで覆われたそこは、まさしく“庭園”のようだった。
二人で中に入る。そこには、沢山の草花があった。
やっぱり庭園でしょ、ここ。
足元に続くちょうど横に二人並んで歩ける程度の小道を、周りの花や蝶を見渡しながら歩いていく。
昔からおとぎ話の本を読み漁っていた私は、目の前の光景に気分が舞い上がり、いちいちしゃがんでは、花を眺めていた。
さっきからもふくんがずっと無言。大丈夫かな…そう思ってもふくんのそばに戻る。
ボーッとしていたのか、私が声をかけると、ハッとしたように少し裏返った声を上げた。
そう言って微笑んで私の頭を撫でるもふくん。その顔は何処か疲れているように思えた。
そう言って半ば強引にもふくんをベンチに座らせる。
そう言ってもふくんの隣に座る。
そよ風と日陰。それに、目の前の噴水の水の音がとても心地よかった。
徹夜終わりだからこの方がいいかも…そう思っているとふと、方に重みがかかる。
隣を見ると、スースー…と寝息を立てているもふくんがいた。首にあたる紫がかった髪が、とてもくすぐったい。
私は、出掛ける前にもふくんがPCと睨めっこをしていた事を思い出した。
きっと、私がするはずの編集作業を代わりにやってくれていたのだろう。
寝ていて、届かないであろうもふくんにお礼を言う。
私も心地良さに負けて寝てしまいそうになりながら、蝶と花を眺めていた。
小一時間ほど後、やはり私は睡魔に負けてしまったのか、隣で恥ずかしそうに私に肩を貸しているもふくんがいた。
✄------キリトリ------✄
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!