一週…いや、二週間後。
心做しか顔や腕の痣が増えてしまっている気がする。
少しヒリヒリして痛い。
そういつものように言って、自分の部屋に向かう。
それから、荷物を置いて着替えてから、お弁当箱と水筒を持ってキッチンに行く。
腕まくりをして、蛇口をひねる。
袖口から覗く腕は、やはり痛々しい。
食器を打ち付ける水の音で、ドアの音が聞こえなかったのだろう。
急にそう言われ、痣を見られてしまった絶望感で洗い物をしている手が止まる。
ガタンっとお弁当箱を落とす音でハッとし、顔を上げる。そこには、キッチンのカウンターに頬ずえをつき、ニコッと微笑んでいるゆあんくんが居た。
微笑んでいると言っても、その目は全くと言っていいほどに笑っていない。寧ろ怒っている気さえする。
答えずに固まっている私に、相変わらず笑っていない目で微笑み、ゆあんくんがもう一度言う。
怒っているような笑みに屈し、言葉が詰まってしまう。
笑みを崩し、不服そうな顔で、何かを探るような目で、私を見てくる。
諦めたような笑みで、そう言ってくる。私が言うのを期待でもしていたのだろうか。
そう言ってずっと無言だった私の頭を撫で、ゆあんくんはリビングを後にした。
いつもそう。この二週間、私が怪我をおってきた日は、必ずみんな「何かあったら言ってね」と言ってくる。決して無理に聞き出そうとはしてこない。
これでいい。きっと……これで……。
…………………………いいの、かな。
二週間ずっと、「両親と約束したから」なんて言う理由でみんなには何も言わなかった。
勿論、みんなに心配をかけたくないって言う理由もあった。でも、あんな事を言われている時点で、心配は既にかけている事は、分かっている。
両親との…約束…。
簡単に言えば、「他人に頼りっきりになるな。」そう言う“約束”。
私を口を、心を、縛ってしまう拘束のような、両親の強要じみた言葉。
優しい両親が、唯一私に命令した言葉。
小指を交わしたわけでも、了承した訳でも無い。
ただ、泣いているように、怒っているように言う両親の顔が忘れられなくて。
破っちゃいけないと思って、ずっと縋りついて。
それ故に「助けて」の一言さえ、誰にも言えなくて。
もう居ないのに、破るのが怖くて……。
だから、自分自身に、大丈夫って誤魔化して。
母は、父が居ない時、私に言った。「本当に辛い時は頼ってもいいのよ。」と。
その言葉は、私に困惑と悩みを植え付けた。
もう、十分頼ってきた。些細な事でも、十分に。
でも、本当に辛くなった時は、頼ってもいいかな……。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!