のあさんが私に「歌ってみたをしましょう」と言ってきた日のこと。
上機嫌なのあさんに手を引かれて三階に連れていかれている。
のあさんは前を向いたまま答える。
ほんっと何個部屋あるのこの家……!
それから、三階左の部屋に入る。
一階にある機材室と全く同じで、錯覚を起こしてしまいそう。
そう言ってまとめてある四つの紙束を机の上に広げる。
ボカロしかない歌詞をペラペラとめくる。
そう言って私がその中で一番好きな曲の歌詞を手に取る。
そう言ってのあさんは機材をいじる。
のあさんがマイクを調節してくれる。
のあさんはそう言ってヘッドホンを渡してくれる。
そう言われ、自分のマイクに向かって声を出す。
作業中はただマイクに向かって歌っていただけだった為、ヘッドホンを通して聞こえてくる自分の声が少し居心地が悪い。
そう言うと、のあさんが笑う。
そう言って、のあさんがまた機材をいじる。
のあさんが口パクで私に言ってくる。
そう言ってから少しすると、歌詞の出だしに差し掛かった。
静かに息を吸って、歌い出す。
のあさんの反応を見るのが怖くて、歌詞と目の前のマイクを見つめながら歌う。
ヘッドホンを通すと自分はこんな声なんだな…とか、ここはこう歌った方がいいんだろうな…とか。
色んなことを考えながら、一通り歌い終える。
静かにヘッドホンを外すと、のあさんが飛び付いてきた。
頑なに「嫌」と言い続けると、今度はちゃんと受け入れてくれた。
それから何度か練習して、本番にいった。
編集はのあさんがするそうで、そのままパソコンを持っていかれた。
翌日、のあさんの仕事は早いもので、もう歌ってみたが公開されていた。
コメント欄を暫く読んではいたものの、小っ恥ずかしくて途中でリタイアしてしまった。
✄------キリトリ------✄
閲覧ありがとうございました✿゚❀.(*´▽`*)❀.゚✿

編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。