それはある日の朝だった
「ふぁあ~…」
「お?なんだ、また実験してたのか?彼氏とお揃いになってんぞ(笑)」
「やだ、あそこまで酷くないでしょ~
もうちょいで結果が出そうなのよねえ」
ほぼ徹夜に近い状態で隈を作ったあなたと、キャスが話していたところだった。
「程々にしろよな、キャプテンに怒られるぞ」
「そしたらお互い様よって言い返してやるわよ~、じゃあね~」
「おう!…あ?おい、あなた…行っちまったか」
手を振ってあなたが部屋に向かうのを見送る際、何かがあなたのポケットから落ちた。
「なんだこれ、読めねー字だけど本か…?」
それは本ではなく、アメストリス語でタイトルの書かれたアルバムだったのだが、そうとは知らずキャスはそのアルバムを開いて固まった。
「な、…なんだこの、ムキムキマッチョは…!!?」
捲っても捲っても、出てくるのは同一人物のムキムキのマッチョ。
偶に文字が書かれているが読めない。
更にはあなたと一緒に写ってる写真もある。
それもただの写真ではない、抱き合っている写真だ。ただの男ならまだよかったが、何故にムキムキマッチョ!?
キャプテンはどちらかというと細身、言うなればヒョロいのだ。劣等感を感じても不思議ではない。
それを見終わったキャスは顔面を蒼白にさせて、考えた。
「…もしかして、このムキムキマッチョ…
あなたの前の男か…!!?」
つい先日漸く、キャプテンとくっついたあなた。
微笑ましくラブラブな2人で、キャプテンの機嫌も非常にいい。
それなのに、これが見つかった場合を考えると…
「まずい…確実にキャプテンの機嫌が急降下するッ…!!!
よし!とりあえずペンギンに相談ッ…!!!?」
「誰の、機嫌が急降下するって?
キャス」
なんで俺ばっかりこんな目に
by キャス
キャプテンに見つかったキャスは、なんとかペンギンも一緒にという約束を取り付けて、話す事に成功した。
「で?一体何があったんだ」
「これッス、あなたとさっき会ったんですけど、去り際にポケットから落としていって、気づいて渡そうとしたら」
「いなかったと」
はい、と冷や汗をかきながら答えるキャス。
中を見たのか?とペンギンが問えば、見た。とぎこちなく呟く。
「で、でもっ、キャプテンは見ないほうが…だああああ!!!?」
「…なんだこいつは」
現れたのはやはりムキムキマッチョ
見間違いではなかった
「おい、キャス」
「ヒィイ!おっ俺も知らないんです!」
しかし、キャプテンと恋仲になった今こんな物を持ち歩くのはおかしい気がする。
「弟達は自分より小さいと言っていたし…
父親とは疎遠、こんなに大きくなってから会ったとは考えにくい…」
「……前の男か、」
「「(そう考えるのが妥当だけど怖すぎて肯定出来ない…!)」」
今にもグシャリ、スパンッと手に持つアルバムを切ってしまいそうなキャプテンを怖がる2人。ただでさえ最近、キャプテンもあなたも2人してノってきている様で、会う時間も無く実験や勉学に勤しんでいた。
「…あいつ、ちゃんと勉強してんのかと思って気を使った俺がバカだったか、
おいペンギン、キャス」
「「あっ、ハイィ!!」」
キャプテンは一層隈の濃くなった目をギラつかせて、コレについて聞いてこいと俺らに命令した。
「いやっ、キャプテンそれ自爆…イダッ!?」
「アイアイキャプテン!!!」
キャスが余計な事を口走らない内に引っつかんで、船長室を出た。
「ペンギン、どうすんだよ…俺怖くて聞けねぇよ~!!」
「馬鹿野郎!!俺もだわ!!全く巻き込みやがって…!」
とりあえず、お前が拾ったんだから返すついでにそれとなく聞いてこいと言うと、真っ青になったキャスとのアルバムの押し付け合いが始まった。
「ばっか…!!やだよ!!最近こういう事多いんだよ!たまにはお前がやれよ!」
「キャスがコレ拾ったのが悪いんだろうが!!行ってこい!」
「うっせ!ペンギンだってあの場に居たら拾ってたね!!絶対!!」
キャスが行け、ペンギンが行け、と止まらない押し付け合いをしていると、何時もなら心地いい鈴の音の様な声が聞こえた。
「あ!キャス、ペンギン!」
「「え!?!あなた…っ、」」
突然現れたあなたにビクリ!と大袈裟に反応した2人だったが、徹夜明けで判断力が鈍ったあなたには気づかれなかった。
「ねえさっきこの辺でアルバム落としたんだけど、知らない?」
「(ウワァアアア!!いきなりきた!!)えっと、…」
「ああ、これだろう?」
覚悟を決めたペンギンがスッとアルバムをあなたへと差し出した。
「あ!これこれ!よかったぁ~!無くしたかと思って焦った…!」
「なぁ、ところでよ。その写真の奴って誰なんだ?」
「え!?み、見たの…!?///」
は、恥ずかしい…!とアルバムで顔を隠すあなたに、オワタ。と自分の死期を悟った2人だった。
「この人はね、私の先輩の弟なんだけどね」
「(あぁあ…やばい、おわった…)」
「(今日が命日になるのか…)」
「実は私、この人の筋肉が大好きで…!
筋肉フェチなのっ!!///」
「ふーん、筋肉ねぇ………は?」
「へー、筋肉フェチなん………え?」
てっきり元彼だと思ってたが、筋肉フェチと聞いて持ち直す2人。
「は、え?元彼じゃねえの?」
「え?誰が?」
「いやいや!これ!この人!!」
アルバム開いてを指差せば、きゃっ♡と言うものの、違うわよ?と帰ってくる。
「よく言うでしょ?理想と現実は違うって。」
「でも好きなんじゃないのか?この筋肉」
「きゃ♡
好きだけど、顔は別にタイプじゃないわよ?」
男ならわかるんじゃない?
巨乳には目がいくでしょう?とあなたが言えば、確かに~!!と納得する2人。
「なーんだそっか!よかったー!!」
「安心した、これでまだ生きていられるな」
「え?なに?全然状況がつかめないんだけど…」
はてなを浮かべるあなたに、気にすんな~と言い、よかったよかったとキャプテンに報告した2人だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。