「私さー、尾白先輩に告られたんだよねー…」
私はなんとなく、この前のことを話題にした。
先輩に告られて1週間くらいたった頃、大和と一緒に帰ることになった。
というか、放課後私が教室で寝ちゃってたのを部活終わりの大和が今起こしてくれたんだけど。
もー、寝るつもり無かったのに目を閉じたら寝てた…
「え、あのバイトの?」
「そー。」
「へぇ。」
大和は興味無さそうに言ってタオルで頭を拭いた。
「先輩のこと好きなの?」
「いや…まぁ…先輩としては好きだけど…」
別に、恋愛対象じゃなかったっていうか…
「付き合うの?」
「…。」
付き合う…
ー返事は今度でいいから…
今度っていつだろ。
もう何回も会ってるのに。
いつまで考えればいいんだろ。
「付き合っちゃおうかな〜…」
まだ、先輩に対して恋愛感情はないけど…
これから好きになっていけばいいよね。
「そしたら…」
あのことも…
「トラウマ克服できるって?」
思っていたことが声に出され、びっくりした。
しかも、私じゃなくて、大和が。
「…え、なに、心ん中読んだ?」
「…だいたい分かるよ、何考えてんのか。」
…バレバレ、か。
まぁー、そうだよねー…
私が恋愛で悩むことなんて、それくらいだし。
「先輩、優しいし、真面目だし、信用できるし。」
実際、先輩に告白された時、少しもドキドキしなかったわけじゃないし。
「…」
「先輩が彼氏になったら…
今度こそ私、幸せになれるかな…?」
独り言のような、大和に問うような、曖昧な声の大きさだった。
大和は何も言わない。
言葉を選んでるのか、興味が無いのか。
いや、興味が無いことは無いと思う。
今まででも1番親身になってくれたのは大和だもん。
ただ、聞こえてなかっただけかも。
まぁ、それならそれでいいんだけど。
沈黙が訪れて、数分たって大和が口を開いた。
「なぁ…」
「んー?」
私はカバンのチャックを締めながら言った。
「俺にすれば?」
「…は?」
急すぎて心臓が止まるかと思った。
「何言ってんの?」
大和は幼なじみじゃん。
ありえない。
「第一、私の事好きでもないく」
「好きだよ。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!