徐々に近づく先輩の足音。
戻らなきゃ。
早くー…
「あ…」
私の横に先輩は現れた。
「あれぇ、あなたじゃん。
何してんの。」
「っ、」
私は泣きながら先輩を見上げた。
「あー…」
ため息混じりにニヤッと笑い、私を見下す遥斗先輩。
こんな先輩…知らない。
「もしかして、今の聞いちゃった?」
コクっと頷く。
「あぁ、そう。
いい子に下駄箱で待ってればよかったのに。
バカだね、お前。」
“お前”
遥斗先輩はもう、私の名前を呼びはしない。
「そんなに睨むなよ。
所詮、騙される方が悪いんだから。」
「そ、んな…っ」
冷たい言葉。
こんなに涙が出てくるのは、私はまだ、先輩を好きで…
今のこの状況が信じられなくて…
「先輩はっ…
告白してくれた時から、遊びのつもりで…?」
「あ?
まぁそうだな。」
っ…
また涙が出そうなのを堪えていると、先輩は優しく笑った。
いつもの笑顔。
「んなわけないでしょ、冗談だよ。
最初は…好きだった。」
「!」
そっか…
先輩も、ちゃんと最初は…
私はもう、それだけ聞ければ十ぶ…
「…とでも言って欲しかったの?」
ニコッと笑った先輩の口から出たその言葉。
「…え?」
なに…
「最初好きだったかどうか聞いてどうしたいワケ?
安心したいの?
ちゃんと恋愛してたんだって?」
…全部言う通り。
何も言い返せない。
「くだらないね。」
やめて。
「だから遊ばれたんだよ。」
もう言わないで。
「誰が…」
その笑顔で…
その優しい顔で言わないで…
私の中の遥斗先輩を崩さないで…
「誰がお前なんか本気にするかよ。」
「っ」
私はその場にへたり込んだ。
下を向いて、静かに涙を流すだけ。
なにも出来ない。
何も言えない。
胸が痛い。
どうしてっ…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。