大和がいてくれて、安心できた。
でも…
だからと言って、全てを忘れることが出来たわけじゃない。
このことは、私のトラウマになってしまった。
告白してくれた人たちも沢山いたけど、私のこと本当は好きじゃないんじゃないかって。
遊びのつもりなんじゃないかって。
浮気相手に選ばれたんじゃないかって。
相手を信用しきれない。
付き合っても不安になって、気付けば他に好きな人がいるって振られたり、二股されてたり。
今までこんなことばかりだった。
「おい、黙ってんなよ、なぁ?」
はっと我に返る。
目の前には高校生の遥斗先輩。
重なる。
一緒。
あの時と変わらない。
「やめてくださいっ」
掴まれた腕が痛い。
私のトラウマの元凶。
こんな所で会いたくなかった。
一生会いたくなかったのにっ…!
なんで離してくれないの?
「女の子いじめて何が楽しいの?」
「!」
後ろからする声。
振り返ってみたその先に。
「せ、え…
尾白先輩!?」
前と同じセリフだったから、また大和かと思った…
ていうかなんでカラオケに!?
「なに、お前。
新しい彼氏?」
「そうだけど?」
えっ
尾白先輩が間に割って入った。
そして私の方をグイッと寄せた。
「人の彼女に手出さないでもらえる?」
わっ、
顔、近…
「ふーん。
愛されてんじゃん、あなた。
だけど…」
ニヤッと笑う口元。
私を見下す目。
「いつまで続くかねぇ?
こんなバカ犬に、付き合ってくれんのも今のうちだぜ?」
ゾクッ。
体が強ばり足がすくみそうになる。
やめて…
「ウザったくなる前に、別れといたほうがいーぜ、今の彼氏さん?」
ハッと笑って遥斗先輩は私たちに背を向けた。
「待てよ。」
尾白先輩が遥斗先輩の肩を掴む。
「あ?」
「その言い方からすると、元カレみたいだけど…
君はあなたちゃんの何を見てきたの?
あなたちゃんは君が思ってるような人じゃない。」
!
「…んなの、俺にはどーでもいいな。」
遥斗先輩は尾白先輩を睨んで手を振り払い、そのまま歩いていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!